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Meryam Joobeur『Who Do I Belong To』チュニジア、息子を"失った"母親の心象世界

2024年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。Meryam Joobeur長編一作目。2018年製作の短編『Brotherhood』で世界的に認知された彼女の初長編ということで、設定は短編から演者ごと流用しているんだが、視点人物を兄弟たちから母親に変更しており、それによってチュニジアにおける女性の立ち位置も文脈に混ぜようとしたようだ。アイシャと夫のブラヒムは、三男アダムとともに、チュニジアの風が吹きすさぶ荒涼とした地域で暮らしている。長男メフディと次男アミンはISISに参加するために家出してしまい、それ以来一家の農園は静まり返っている。地元の警察官の青年ビラルが機能不全に陥った家族を甲斐甲斐しくサポートしている。そんなある日、長男メフディが妊娠した妻リームを連れて農場に戻って来る。彼らを匿うと連座して家族まで刑務所行きになるが、せめて出産まではサポートしたいというアイシャの進言で若夫婦を留め置くことに。すると村では謎の失踪事件が起こり始める云々。深度の浅いクローズアップを多用し、彼らの近視眼的な思考を視覚的に共有しようとしているようだが、アイシャの幻想描写を筆頭に全てのシーンが空回りしており、あざとさすら感じてしまった。やる気のないテレンス・マリックみたいなスピ心象映像撮る前にやることあるだろ。題名"私は誰に属してる?"が象徴する通り、主人公をアイシャに変更したのは、社会や夫に従属している女性が持つ疑念を丁寧に描くためと思っていたが、そもそも夫であるブラヒムはほぼ登場しないし、若夫婦の存在に謎が多すぎて全員が困惑してるというだけのシーンが多すぎて、肝心のテーマに結びつかない。最終章で明かされる若夫婦のエピソードも唐突すぎて、語られるべき物語が大雑把に消費されている感じがキツイ。最後まで何が言いたいのか分からず、失踪事件も背景で起こってるだけで物語と一切絡まず、全体的にスクリーンの向こう側で閉じていた印象を受けた。ちなみに、カウテール・ベン・ハニア『Four Daughters』もチュニジア映画だし、二人の娘がISISに参加してしまう話だった。チュニジア近代史と女性という側面も同作のほうが上手く描けていた。

・作品データ

原題:ماء العين
上映時間:117分
監督:Meryam Joobeur
製作:2024年(チュニジア等)

・評価:40点

・ベルリン映画祭2024 その他の作品

★コンペティション部門選出作品
3 . アブデラマン・シサコ『Black Tea』広州のアフリカ系移民街に暮らす人々の物語
4 . マティ・ディオップ『ダホメ』ベナンに戻ってきた美術品たちについて
5 . ヴェロニカ・フランツ&セヴリン・フィアラ『デビルズ・バス』オーストリア、追い詰められた女たち
8 . ブリュノ・デュモン『The Empire』フランドルの"スター・ウォーズ"は広義SF映画のカリカチュア
10 . マルゲリータ・ヴィカーリオ『グローリア!』音楽を理論や楽譜や権力や階級から解放する映画
13 . マリヤム・モガッダム&ベタシュ・サナイハ『私の好きなケーキ』イラン、老女の恋は泡沫の夢
14 . ネルソン・カルロ・デ・ロス・サントス・アリアス『ペペ』ドミニカ共和国、カバのペペの残留思念が語る物語
15 . ミン・バハドゥル・バム『Shambhala』ネパール、シャンバラへゆく者
19 . ホン・サンス『A Traveler's Needs』マッコリ大好きナチュラルサイコ教師ユペール
20 . Meryam Joobeur『Who Do I Belong To』チュニジア、息子を"失った"母親の心象世界

★エンカウンターズ部門選出作品
4 . ギヨーム・カイヨー&ベン・ラッセル『ダイレクト・アクション』フランス北西部ZADで抵抗する人々の生活と活動
5 . ルート・ベッカーマン『ウィーン10区、ファヴォリーテン』オーストリア、イルカイ先生の教室
10 . チウ・ヤン『空室の女』中国、機能不全家族を描く機能不全な映画
13 . ネレ・ウォーラッツ『目は開けたままで』ブラジル、"翻訳している相手のことを本当に理解してる?"

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