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Živko Nikolić『Luka's Jovana』モンテネグロの山奥に暮らす夫婦の見た世界の揺らぎ

傑作。ジヴコ・ニコリッチ(Živko Nikolić)長編二作目。『The Beauty of Vice』でも思ったが、この人は本当に冒頭の引き込み方が上手い。本作品は断崖絶壁のロングショットから始まる。カメラが崖に躙り寄っていくと、そこにへばりついている白い影が見え、羊でもいるのかと思ったら鉄の棒を抱えた人間で、足元の岩を割って崖下にいる人物に投げ渡しているらしいというのが分かってくる。これが本作品の主人公となる若夫婦ルカとヨヴァンナである。彼らはこの山奥に二人だけで生活しながら、建材用の石灰岩を採掘しているのだ。ラブラブで無邪気な生活を続けていたある日、手を縛られてボロボロの服を着た男を引き連れた集団が二人の休んでいた木陰を通り、その木を使って男を絞首刑にした…というエピソードを皮切りに、夫婦は様々な外的要因(主に自他の性欲に起因)に侵犯され悩まされることになる。特に新しい世界を知ったことによるヨヴァンナの苦悩が性欲の解放と関連付けられるのは後の『The Beauty of Vice』にも似ている。この絞首刑で殺された男の兄で失業中のイコン画家のペタルを含めた三角関係という主軸となる物語はありつつ、断片的なエピソードを重ねるというスタイルは前作『Beasts』と似ている。ただ、本作品ではモンテネグロの山奥に広がる岩だらけの山肌という圧倒的な自然の情景があり、これが必然的に物語の主人公の一人となるため、吠えるおじさんの顔だけで物語を紡いでいた前作と比べて"世界"が大きく広がっている。特に高さが導入されたのは大きい。冒頭で岩を投げ落とすのと、死体を底の見えない谷間の縦穴に投げ捨てるのは、どこか天界-地上-地獄を結んでいるようにも見えてくるのだ。ただ、明らかに無垢っぽい男が序盤で絞首刑になっていたり、いきなりルカを誘惑してくる女とその気弱な夫が登場したり、ヨヴァンナが何度も襲われかけたり、基本的に治安が悪いので地上こそ地獄なのかもしれないのだが。また、前作でも主題の一つとなっていた"教会の堕落"は本作品でも取り上げられ、石造りの教会がぶっ壊れるまで石を投げつけるという衝撃的なシーンもあった。本作品では台詞よりもビジュアルに振り切っており、それがどれも成功しているのが良かった。

・作品データ

原題:Jovana Lukina / Јована Лукина
上映時間:99分
監督:Živko Nikolić
製作:1979年(モンテネグロ)

・評価:80点

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