ロルフ・デ・ヒーア『ヒコーキ野郎 / スカイ・キッド』オーストラリア、大空を飛ぶ夢
傑作。ロルフ・デ・ヒーア長編一作目。小学生のオーヴィルは飛行機大好きオタクで、連日のようにラジコン飛行機を飛ばして遊ぶ集団にくっついて眺めている。しかし、この集団は単に親からラジコン飛行機を買ってもらっただけっぽいので、飛行機そのものに愛着があるわけでもなく、オーヴィルのことを只管ウザがっている。そんな折、廃工場のガレージに偏屈老人ハリーが所有する本物のタイガーモスを発見する(余談だがハリーはユーリー・ノルシュテインに似ている)。拒絶するハリーへの愛情表現として、大切にしていたタイガーモスの模型を渡したり、絵か設計図を吹き矢で飛ばしたり、色々不器用すぎる。なんやかんやあって、ハリーとオーヴィルは再びタイガーモスを飛ばすために協力することになるのだが、これがシンプルに楽しくて夢がある。大空を飛ぶ夢が、単純に飛行機に乗るとか飛行場に行くとかではなく、模型飛行機から実際の飛行機を作り直して空を目指すという段階を踏んでいるのも良い。だからこその夢という感じがする。それに張り合えるだけの悪役ということで、イジメっ子少年は実にしつこく、大人にも容赦しないのが興味深い。
少年と老人の空を飛ぶ夢、というとフランチシェク・ヴラーチル『Clouds of Glass』を思い出す。軍の映画局で作られた短編映画なのだが、空を飛ぶことに憧れる少年はパイロットだった父親が飛行機事故で死んでも尚、空への憧れを持ち続ける。自滅してでも空を飛びたいという願いの映画なのだ。本作品も戦争と直結している。ハリーはパイロットで、彼の同僚で既に亡くなったパイロットたち(老人の姿で登場するが彼らも実は戦争で亡くなったのかもしれない)が幽霊の姿で登場する。そして、自分が死ななかったのは臆病者だったからだとするハリーに、オーヴィルは全て承知の上で"それでもただ空を飛びたい"と願うのだ。
・作品データ
原題:Tale of a Tiger
上映時間:80分
監督:Rolf de Heer
製作:1984年(オーストラリア)
・評価:80点
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