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Ardit Sadiku『The Forgotten Mountain』アルバニア、"呪われた山"で過去の自分を見た男

アルディト・サディク(Ardit Sadiku)長編二作目。無職の息子に家と店を騙し取られた老齢の父親リカルドは、娘エマを頼って夫ロレンツが持っている山奥の小屋に三人でやって来る。人口は20人程度の小さな村での生活は都会での問題を忘れさせるどころか、無視してきた問題まで表出させてしまう。娘夫婦は不妊治療を続けていたが、大きな手術が必要と分かってロレンツは躊躇している。仕事一筋で家族のことは妻に丸投げだったリカルドも、妻を亡くして意気消沈しており、実の息子に裏切られて慣れない環境での生活を余儀なくされたことも相まって、"死にたい"とばっかり言っている。息子は既婚だが無職だったらしく(言及されてないが夫婦揃って無職だったんだろう)、その世話まで妻に丸投げしていたようで、そういったリカルドの態度は、ロレンツにも感じられる。喧嘩した後の割れたガラスを彼女に片付けさせていたり、客の空いたグラスに酒を注がせていたり、大きくはないが決して小さくもない棘が垣間見える。リカルドはまるで自分の過去を見ているかのように感じられたことだろう。"呪われた山脈"と呼ばれる山々は灰色の岩肌と豊かな緑を同時に見せ、前景と後景の奥行きを感じさせる画面の最後景で不穏な背景を提供している。前景と後景は屋外のロングショット、或いは室内のフレーム内フレーム(扉/窓/鏡)によって分けられていて、それらを横断することで、逆に横断させまいとするシーンにおける見えない断絶を可視化していく。それは死者である妻とまだ生きているリカルドとの距離を改めて彼に気付かせるための断絶なのかもしれない。

・作品データ

原題:Mali i Harrum
上映時間:94分
監督:Ardit Sadiku
製作:2018年(アルバニア)

・評価:70点

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