見出し画像

アリ・ハムラーエフ『Man Follows Birds』ウズベキスタン、ある青年詩人が見た暴力と絶望の叙事詩

傑作。ウズベキスタンを代表する映画監督アリ・ハムラーエフによる代表作。暴力に囲まれたウズベクの若き詩人の青春物語。冒頭から暴力と絶望が畳み掛けてくる上に、最後まで隙間なく詰め込まれている。エミール・バイガジン初期作(特に『ハーモニー・レッスン』)みたいな、ジワジワと追い詰められていくような"ねっとり"とした絶望感よりは幾分マシだが、あまりにも唐突に始まって唐突に終わるという意味で絶望感がある。"アーモンドの花が咲いた!"と叫んでいたら村人からリンチにあい、自分を産んで死んだ母親の幻想と彼女の思い出に囚われて酒浸りになる父親が度々登場し、その父親が酒飲みすぎて死んだら葬式中に家財を借金のカタに取られてしまい、村娘に惚れられるが望まぬ結婚を迫られる彼女を助け出すことなどできない。村を追われて放浪する二人には更なる絶望が降りかかるが、二人はそれを退けて生き抜こうとする。彼らが見出す希望は詩という形で主人公ファルークの口から語られ、その言葉を喚起するような自然の情景が鮮やかに切り抜かれる。ウクライナにはイリェンコが、ジョージアにはパラジャーノフがいるように、ウズベキスタンにはハムラーエフがいるとも評される色彩感覚の美しさが良い

題名にもある通り、本作品は鳥の存在が重要になってくる。印象的な場面は三つ。一つ目は権力者の風刺劇を上演していた大道芸人が、鳥のモノマネ中に権力者本人に射殺されるシーン。二つ目は大雨に降られた二人が隠れる洞窟に大量の鳩が避難してくるシーン。逃避行を続ける二人の存在は鳥に重ねられているが、飛ぶという特徴的な動作以外の、人間に簡単に殺される側面、夜や雨の中では自由に飛べないという側面が強調される。三つ目は逆に、生命の天使と別称される孔雀みたいな鳥が、見つけると幸運を齎す鳥として紹介される。そんな状況に置かれても希望を信じて生き抜く二人の姿が託されている。そんな彼らの前に、洪水で家族を失った少女グルチャが現れる。二人は彼女を仲間に入れるが、すぐに三角関係に発展してしまう。グルチャはファルークではなく彼の相方カビブが好きだった。そんな二人を観て、彼らの寝床に果物を並べながら、ファルークは死んでしまった人々に向けて"貴方は愛を語ってくれた、貴方の世界からここが見えるなら、彼らを助けてあげてくれ"とつぶやく。なんて詩的で悲しい映画なんだ。

・作品データ

原題:Человек уходит за птицами
上映時間:87分
監督:Ali Khamraev
製作:1975年(ソ連, ウズベキスタン)

・評価:80点

この記事が参加している募集

よろしければサポートお願いします!新しく海外版DVDを買う資金にさせていただきます!