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ガブリエル・マスカロ『The Blue Trail』ブラジル、"未来はみんなのために…"
2025年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。ガブリエル・マスカロ長編五作目。75歳以上の老人が若者たちの負担にならないようコロニーに移住させられる遠くない未来のブラジルはアマゾン川流域の小さな町で、77歳のテレザはワニ肉加工場で働いていた。収容されるのは80歳からと思っていたテレザは残り3年間の自由を自らの意思で仕事することで過ごそうと決めていたが、ある日突然、全ての行動に娘の許可が必要になることを知り、逃亡する云々。彼女の逃避行は同行者によって章分けすることができ、それぞれの場所で"自由に生きたい"という確固たる意思のもと、流されるように様々な場所を訪れる。一度でいいから空を飛びたいと考えて、モグリのパイロットのいる場所にモグリの船で向かう…目的地でモグリのパイロットを見つけるがギャンブル狂のアマチュアで…と様々なエピソードがあるものの、どれも行き当たりばったりで尻切れトンボという微妙な印象を残す。テレザ役のデニース・ワインバーグが非常にキュートなので、シリアスになりきらないのは上手いし(そのへんは前年のモガッダム=サナイハ『私の好きなケーキ』を思い出した)、船で電子版聖書を売り歩くシスターとの激アツなシスターフッドや青いカタツムリの汁を眼に打ち込んでキマっちゃうなどワクワクする要素もあるんだが、船旅だけにエンジンが掛かる前に終わってしまった感。ただ、老人嫌悪的な政府施策への反抗というのはやはり興味深い題材で、偶然にも同じ日に見た同じ題材の作品で、若者のためにどんどん自殺してくことが美談のように語られていたので、それを考えると自由を求めてフラフラして、同士と酒のんでこれまでやったことないことをするという緩い映画というのもありかもしれないと思うなどした。
・作品データ
原題:O Último Azul
上映時間:90分
監督:Gabriel Mascaro
製作:2025年(ブラジル)
・評価:70点
・ベルリン映画祭2025 その他の作品
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