Michael Klier『Ostkreuz』ドイツ、壁は崩壊したけれど
オストクロイツ、東の十字路を意味するこの単語はベルリンにある駅の名前で、二つの大きな路線が立体交差する有名な駅を指す。崩壊した壁もすぐ傍にある。壁が壊れたばかりの1991年当時、その地域一帯は『大理石の男』を思い起こさせるだだっ広いマンション建設予定地があり、既に完成した同じような高さのマンション群も含めて規格化されたディストピアのような雰囲気が漂っている。廃墟と建設予定地に囲まれた旧東ベルリンには、労働者として流れ着いた東欧移民、そこから転じて犯罪者となった者、などなんとかして金を稼ごうとする人々が幾度となく登場する。しかし、本作品は外国人犯罪者の話ではなく、汎ヨーロッパ・ピクニックの犠牲者とも言える東ドイツに"残された"子供たちを追うことで、荒涼とした大地に取り残された"東ドイツ"のポートレイトを描き出そうとしている。『グッバイ、レーニン!』で語られることのなかった壁崩壊直後の闇の歴史は、本作品によって既に提示されていたのだ。
主人公エルフィーの設定も中々興味深い。彼女は母親とともに汎ヨーロッパ・ピクニックによって逃げ出したものの、結局東側の土地に戻ってきたらしく、難民キャンプのようなコンテナハウスで暮らしているのだ。アパートを買うには保証金3000マルクが必要で、職にあぶれた母親はそれを工面できない。それどころか成金のおっさんと付き合い始めて、ベルリンを離れる話すらし始める。エルフィーは学校も行かずに職を探して金を工面しようとする。そこで出会うのがポーランド人のセコい不良ダリウスである。彼はエルフィーを様々な形で振り回し続けるが、彼女もダリウスしか頼る人間が居ないので何度騙されようが彼を頼り続ける。
また、汎ヨーロッパ・ピクニックで両親が去ったまま音信不通という姉弟も登場する。姉はダリウスと恋人だったという描写もあり、バーに入り浸る描写もあって自らの手で生活を切り開く力があることがうっすら分かるのだが、弟はエルフィーよりも年少ながら常に一人でいるような描写がなされる。二人の孤独な少年少女はそれによって惹かれ合う終盤は非常に美しく、時代に取り残されてしまった二人の子供は煙草を吸ってビールを飲むことで大人の真似事をし、マンションの廃墟で生活の真似事をすることでこの時代を生き抜こうとするのだ。
オストクロイツ駅は周りに古い駅舎やその設備、周りにある廃墟に至るまで東ドイツ時代を強く匂わせる情景が人気だったらしいが、2018年まで10年以上に渡る近代化の工事によって当時の面影も少なくなったであろうことは想像に難くない。廃墟好きだから改装される前に行っておきたかった。
・作品データ
原題:Ostkreuz
上映時間:84分
監督:Michael Klier
公開:1991年7月23日(ドイツ)
・評価:80点
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