Leonardo Van Dijl『Julie Keeps Quiet』ベルギー、ジュリーはなぜ沈黙を続けるか?
傑作。2025年アカデミー国際長編映画賞ベルギー代表。製作総指揮にダルデンヌ兄弟と大坂なおみの名前があった。映像的にはダルデンヌ兄弟っぽくはなく、敢えてベルギーで比べるならシャンタル・アケルマン寄りな気もする。物語はベルギー・テニス連盟の選抜テストを目前に控えたテニスクラブで、有望株である主人公ジュリーのコーチを長年務めていたジェレミーが停職処分になったところから始まる。最近自殺してしまったアリーヌという若手選手のコーチでもあったからだ。テニスクラブ側も内部調査中なので詳しいことを発表せず、周囲の関心は長年の生徒だったジュリーに集まる。彼女の過去は今後は大丈夫なのだろうか?周りは可能な限り様々なタイミングで様々な人が手を差し伸べるが、ジュリーは頑なに沈黙を守る。映画はそんな彼女の日常と小さな変化を静かに拾い続ける。特にコーチの交代は選抜テストへの影響が大きく、新コーチであるバッキーとジェレミーの違いは様々に描かれている。それに対して気に入らない部分は指摘しつつもバッキーの指導法を次第に受け入れていく様が、最も分かりやすい変化として描かれている。また、クラブ側の配慮や対応は他の映画では見たことないくらい丁寧なもので、"(ジェレミーの管理責任は勿論のこと)アリーヌが沈黙を選んだ責任も我々連盟側にある"みたいなことを演説で言っていて、なんら関係のないこちらまで嬉しかった。主演のTessa Van den Broeckは本業もテニス選手であり、共演する同級生たちも彼女の友人たちである。そのため、多く登場する練習風景や筋トレ風景はリアルなもののようだ。当然だがフォームがめちゃくちゃ綺麗で、だからこそジュリーの切迫感が余計に共有されている(ギリ元テニス部らしいコメント)。ちなみに、シャルレーヌ・ファヴィエ『スラローム 少女の凍てつく心』も男性コーチと女性選手の支配/被支配的な関係性を描いていたが、同作ではその関係性をホラー演出として用いて観客を翻弄し、結末まで投げてしまうので好きになれなかった。それに比べると本作品は、ジュリーをどのようにケアするかを第一に考え、ジュリーは差し伸べられ続ける手を握る勇気、一歩踏み出す勇気を得ていくという物語だったので、当然の帰結が待っていて、その丁寧さが非常に心地よかった。
・作品データ
原題:Julie zwijgt
上映時間:97分
監督:Leonardo Van Dijl
製作:2024年(ベルギー他)