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ダーグ・ヨハン・ハウゲルード『Sex』ノルウェー、二人の煙突掃除人とジェンダーアイデンティティの揺らぎ

ダーグ・ヨハン・ハウゲルード長編六作目。"Sex Dreams Love"三部作の第一作。『Love』はヴェネツィア映画祭コンペ部門選出、『Dreams』は未発表なので順番は入れ替わっている。物語は二人の煙突掃除人の男が休憩中にある出来事を語る場面から始まる。上司はデヴィッド・ボウイが自分を女性として扱ってくる夢を見ると言い、部下は依頼人の男の誘いに乗って仕事の後にセックスしたと言う。双方、これまで見られたことのない目線に晒され困惑しつつも、最終的にはそれを受け入れているのだ。特に上司は身体の変化まで感じている(周囲には感じ取れない変化、或いは変化していないのかも)。しかしどうにも言語化出来ずにモヤモヤしている。男たちはそれぞれの妻に体験を語り、各人の言葉によって未知なる体験を言語化しようと試みる。上司と部下、上司夫妻、部下夫妻の組み合わせで自身の体験のことを語るほか、上司は達観した13歳の息子ともやり取りをして(彼には夢の話はしていない)、自分の変化についてヒントを得ている。彼らの会話は非常に真摯で正直で、受け入れがたい状況でも互いを尊重しようと努力しているのが非常に心地よく、無駄なノイズなくテーマに寄り添うことが出来るのがとても良かった。Cecilie Semecによる魅力的な固定長回しは、二人組の会話を延々と撮るという作品にただ乗るだけではなく、横並びになったり寝転んだりと横方向の、そして立ち上がってフレームアウトする縦方向の奥行きを意識させる。また、都市の遠景からズームすると屋根の上に部下が乗っているという冒頭に代表されるズームレンズの使い方も上手い。

ただ、一番面白かったのは大人たちの会話より、上司の息子クラウスの挿話である。恋人がその日に起こったことをYoutubeにアップしており、そのほとんどがクラウスとの会話をそのまんま流しているというのだ。これにはクラウス本人も若干呆れつつ、老後の資金確保手段の一つとしてチャンネル作成を選択肢に入れるのもありか…などと割り切っている感じもある。父親の突然の告白も平然と受け流しているあたり、Z世代の次にあたるα世代の若者という感じなのか。

・作品データ

原題:Sex
上映時間:125分
監督:Dag Johan Haugerud
製作:2024年(ノルウェー)

・評価:70点

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