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トミー・リー・ジョーンズ『ミッション・ワイルド』"ミークス・カットオフ"への返歌

これは面白い。2014年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。トミー・リー・ジョーンズ長編二作目。どっかの企画でアリ・アスターが2010年代のベストに選んでた。1854年、西部開拓時代真っ只中に過酷な大地と家父長主義によって精神を病んでしまった三人の女性をネブラスカからミズーリ川を超えて隣りにあるアイオワまで送り届ける話(川越えはテーマではない)。主人公はNY出身で西部に渡った元教師のメアリーで、今では土地も金も持っているのだが、結婚せねばという強迫観念に強く晒され、家父長主義を内面化してしまっていた。その点で送り届ける側の彼女もまた、送り届けられる側の三人と大差ないのだろう。途中から、どうしようもない男、それでいて多くの西部劇でヒーローとして扱われてきたような男に話の軸がシフトしてしまう残酷さによって、暴力的な自然と男の都合に耐え忍んで生きた女性たちが忘れ去られてきた現実が浮かび上がる。DoPがロドリゴ・プリエトということでマジで構図やライティングが神がかってた。ベルナップ家初登場時の死んだ家畜が芸術的に散乱してる悲惨な構図から、アラベラやグローを迎えに行った際の光、荒らされた墓の周りになんもない無慈悲さ(多分移動中に亡くなったのだろう)、合流したメアリーが荷馬車の中からジョージと会話するシーンの光に至るまで、どれも素晴らしい。東進撤退がテーマになるということで、画面上を右に進んでいるシーンも多く、上記のシーンも光は右から差していて全員そちらを向いてるし、トミー・リー・ジョーンズは絶対にケリー・ライカート『ミークス・カットオフ』を観てると思う。返歌だよ、多分。そんでもって、右への移動が徹底されてないのは、東に希望があると考える三人の女性たちに対して、それが正しいことなのか?とメアリーが迷っていることに起因しているのではないか。彼女の存在は男性優位な西部において曖昧で、馬車の中に閉じ込められた三人と御者台に座るメアリーを隔てる板は限りなく薄いのだ。

・作品データ

原題:The Homesman
上映時間:122分
監督:Tommy Lee Jones
製作:2014年(アメリカ, フランス)

・評価:80点

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