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キラ・ムラートワ『Getting to Know the Big Wide World』ソ連、古きものと新しきもの

傑作。キラ・ムラートワ長編四作目。ムラートワの作品は常に演技/台詞/アイテム/背景/舞台装置などが過剰で疲れるので苦手なんだが、監督が意図的に観客の脳の回路を焼き切りに来ているから適当な距離感で楽しめば良いことを最近になってやっと理解したので再挑戦。物語はリューバ/ニコライ/ミハイルの三角関係を中心に、近代化しつつある建設中の工業都市の見た"最後のイノセンス"の断片を描いている。相変わらず台詞の(特にニコライの台詞の)半分くらいはよく分からんので、物語に関しては単純な構造くらいしか理解してないのだが、本作品の洗練されたロケーションや構図はそれらを補って余りある。通りかかったミハイルがリューバとニコライの乗っていた乗用車を泥沼から引っ張り出す冒頭から、手前高地にいるリューバと奥低地にいる男二人という高低差と奥行きを生み出し、続くショットではトラックの内側がフレーム内フレームとなってコチラを覗き込むリューバを浮き出させる。工業都市を訪れてからはもっとアクロバティックになり、まだ嵌め込まれていない窓が無限に連なる空間での鬼ごっこ、巨大な鏡の破片を使った空間拡張など兎に角"何かを通して"何かを見るという行為が多く描かれ、それによって現在と対象の遠さが浮き彫りになると同時に画面内に共存することとなる。それはリューバの信奉する"最も大切なのは本当の幸せだ、それはどんな優れた工場でも作ることが出来ない"という結婚式でのスピーチにも呼応している。ソ連的国家成長計画に真っ向から反する意見でもあるわけだが、一方で付き従っていたクソ男をリリースして新しい男を捕まえるという三角関係はその真逆のことをしているのも興味深い。アリーチェ・ロルヴァケルが好きな映画として挙げているのも納得の一作。ラストの団地の広場にベッドが並んだ空間とか『夏をゆく人々』そのものじゃん。中盤で活躍する美人双子姉妹のエピソードが好き。

・作品データ

原題:Познавая белый свет
上映時間:79分
監督:Kira Muratova
製作:1978年(ソ連)

・評価:80点

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