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ティナ・サッター『リアリティ』リアリティの駆け引きのリアリティ

ティナ・サッター(Tina Satter)長編一作目。サッターが『Is This a Room』として上演していた作品の映画化作品。2016年のアメリカ合衆国大統領選挙へのロシアの干渉に関する情報報告書をリークした元NSA翻訳者リアリティ・ウィナーへのFBIの尋問記録に基づいている(失礼ながらリアリティでウィナーって凄い名前だな、作中にも名前だけ登場するが妹はブリタニーというらしい)。一言一句そのまんまらしく、たまに本物の録音まで紛れ込み、その意味でも"リアリティ"のある映画だ。83分という比較的短尺な作品で、全編が彼女の自宅で展開される。冒頭からリアリティの日常に非日常がヌルっと入り込んでジワジワと緊張感あふれる駆け引きに引きずり込まれる様がじっくりと描かれる。買い物から帰ってきた彼女の前に二人の男が立ちはだかり、捜索令状があることを伝える。彼らは一見好意的で、リアリティの心配する犬猫や買ってきた食品の話をする一方、家にある武器の種類と場所を聞き出したり、リアリティが予期しない動きをすると全員が即座に戦闘態勢に入ったり、非常にピリついている。一方のリアリティも不安そうな顔をしている。相手がどこまで知っていて、何を引き出そうとしているのか、何も知らない体でどこまで隠し通せるか、という緊張感がある。映画自体は二人の"飴と鞭"刑事とリアリティ本人という、現実にしては上手すぎるような組み合わせで進んでいき、所々開示されていない黒塗り部分を、まるで存在がいきなり消されたかのような演出で補っていく。だが、屋外で駆け引きをしていた序盤の緊張感は、屋内に入って目的がハッキリしていくと薄まっていきテンポも悪くなっていく。それを承知の上でこういう作風にしたのは、名前と状況を掛けたかっただけなんじゃねえのと。ちなみに、SXSW2021で『United States vs. Reality Winner』というドキュメンタリーが上映されたらしく、そっちの方がもっとパワフルらしい。

・作品データ

原題:Reality
上映時間:83分
監督:Tina Satter
製作:2023年(アメリカ)

・評価:60点

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