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Tilman Singer『Cuckoo』カッコーの巣の中で…
大傑作。ティルマン・ジンガー(Tilman Singer)長編二作目。ジンガーは大変素晴らしい作品だった前作『Luz』で一躍有名になり、二作目にしてNEON製作の英語映画を撮るという大躍進を遂げた。今年は推しのジェーン・シェーンブルンやアーロン・シンバーグがA24で新作を撮り、カジク・ラドワンスキの新作がベルリン映画祭エンカウンターズ部門に選出され、ソフィア・ボーダノヴィッチが遂に10年越しのオードリー・ユニバースを終わらせるという推しの大躍進が大挙して押し寄せる年だった。物語は母親を亡くしたばかりで悲しみに暮れるグレッチェンが、父親ルイスとその再婚相手ベス、二人の娘で唖者のアルマと共にバイエルンの山奥にあるリゾート地にやって来るところから始まる。支配人のケーニヒ氏は不敵な笑みを浮かべながら彼らを迎え入れる。新しい家にも家族にも馴染めないグレッチェンは退屈しのぎにホテルのフロントでバイトを始めるが、ロビーで吐きまくる女性があとを絶たず、ケーニヒ氏には"夜のシフトに入るな"とか"帰るときは迎えに行くから自転車で帰るな"とか不穏なことを言われ、彼の言葉を無視して夜道を自転車で帰ると謎の女に追いかけられるなど不穏な出来事が起こり始める云々。グレッチェンが対峙する謎の女の能力として、喉を鳴らすと聞こえた人間の時間をループさせることができるというものがあり、女は喉を鳴らしながら近付き、人間はそれを知りながら少し前の行動を壊れたレコードのように繰り返すという中々新しい恐怖描写が興味深い。ちなみに、謎の女の声への対処法は耳を塞ぐことであり、音を"聴かないようにする"ことが自由になるための最善手であるというのはなんだか示唆的だ。また、劇中に登場するう"繰り返し"行為としてグレッチェンが留守電に残された母親の録音音声を聴き、そのまま母親へのメッセージとして留守電に声を吹き込むという行動があり、劇中で何度か繰り返される。謎の女による時間ループと関連付けるなら、グレッチェンは"同じ時間に囚われている"という状態にあり、そこから"逃れる"ことが最終ゴールとして設定されているのだろう。だからこそ、別々の理由で大人たちに命を狙われるアルマを助けようとするのは、マイノリティが人間でないと罵られ、一方で女性が種の繁殖のためだけに存在させられる環境に中指を突きつける第一歩として捉えた。ちなみに、推しのジェシカ・ヘンウィック先生はほとんど出てきませんでした(涙目)。
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・作品データ
原題:Cuckoo
上映時間:103分
監督:Tilman Singer
製作:2024年(ドイツ, アメリカ)
・評価:90点
・ティルマン・ジンガー その他の作品
★ Tilman Singer『Luz』現在・近過去・大過去の入り交じる悪夢譚
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