ヴィクトル・コサコフスキー『GUNDA / グンダ』豚の家族を追う親密なホームビデオ
2020年のベルリン映画祭から新設されたエンカウンターズ部門に選出されたドキュメンタリー作品。ホアキン・フェニックスがプロデューサーを務めたことでも話題になった本作品は、豚の家族と牛と鶏を描いているのだが、特徴的なのは人の声は一切使用されておらず、彼ら/彼女らの鳴き声だけで構成されていることだろう。劇伴も一切使用されず、鳥の啼き声や仲間たち子供たちの鳴き声、虫の羽音、風が木の葉を揺らす音、草を踏む音、泥を掻く音、様々な自然の音で包まれている。
豚の物語はある母親豚の出産から始まる。生まれたての子豚はよちよちと歩き回り、母親に踏み潰されそうなほど小さいが、そんな子供たちもおっぱいだけは判別できるようで、横たわる母親の乳首に群がりすぎて、母親が"痛えよ!"とばかりに起き上がる姿が面白い。やがて、小屋から出られるくらいまで成長すると、初めて見る広い世界に興味と恐怖を示し、他の子供達とじゃれ合いながら、母親を視認できる範囲から離れない。豚は結構デカくなってもおっぱいを求めて母親の横っ腹に頭突し、中々の激しさでそれにむしゃぶりつくので、母親もかなり嫌々やっているようだ。
鶏と牛の物語は豚に比べると少なく、それが撮れ高による問題か予算による問題か、それとも豚だけだと流石に尺が少ないとか家畜の扱いに対する一般性を失うとかそういう問題で中途半端な長さの挿話が加えられる。中でも面白いのは、牛の顔中に引くほど虫が止まっているのを、二匹が互いの尻尾で叩き落としているシーンだろう。畜産業者ならよく見るかもしれない光景も、家畜の生産物を加工品としてしか知らないような人々には初めての発見のように映る。
彼らが家畜であることを明示しないのは、ラストの破壊力を保つためだろう。まるでホームビデオのような親密さで家族の成長を追い、未知の存在が彼らを連れ去る。誤解を恐れずに一言でまとめると"ヴィーガンのプロパガンダ"だが(ホアキン・フェニックスは有名なヴィーガン)、確かのその親密さは胸に迫るものがある。ちなみに、私は動物の赤ちゃんが根本的にNGなので中々厳しい時間を過ごすこととなった。
・作品データ
原題:Gunda
上映時間:93分
監督:Viktor Kossakovsky
製作:2020年(ノルウェー, アメリカ)
・評価:60点
・ベルリン国際映画祭2020 その他の作品
★コンペティション部門選出作品
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7. ケリー・ライヒャルト『First Cow』搾取の循環構造と静かなる西部劇
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18. ホン・サンス『逃げた女』監督本人が登場しない女性たちの日常会話
★エンカウンターズ部門選出作品
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2. ティム・サットン『Funny Face』地域開発業者、ヴィランになる
3. Victor Kossakovsky『Gunda』豚の家族を追う親密なホームビデオ
5. マリウシュ・ヴィルチンスキ『Kill It and Leave This Town』記憶の中では、全ての愛しい人が生きている
7. クリスティ・プイウ『Malmkrog』六つの場面、五人の貴族、三つの会話
8. Catarina Vasconcelos『The Metamorphosis of Birds』祖父と祖母と"ヒヤシンス"と
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12. Pushpendra Singh『The Shepherdess and the Seven Songs』七つの歌で刻まれた伝統と自由への渇望
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15. C.W.ウィンター&アンダース・エドストローム『仕事と日(塩谷の谷間で)』ある集落の日常と自然の表情
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