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セバスティアン・レリオ『聖なる証』物語の力を信じよ
セバスティアン・レリオ長編八作目。Netflix製作ということで、てっきりヴェネツィアのコンペでのプレミアと想っていたが、ガヴラス、イニャリトゥ、バームバック、ドミニクと定員オーバーだったのか、テルライドでのプレミアとなった(トロントですらないのか)。物語は1862年、ジャガイモ飢饉(1845-1851頃)の傷跡の残るアイルランドが舞台となる。食料のジャガイモ依存とイギリス政府の無策によって被害は拡大し、多くのアイルランド人が亡くなるか渡米したことで人口も急減していた。主人公リブはクリミア戦争を経験した看護師としてそんな土地に派遣される。そこには4ヶ月も食事を取らないという少女アナがいて、その真相を確かめるという仕事だった。看護師という仕事が確立された直後という時代背景もあり、リブは自らの仕事を通して強権的な男たちに立ち向かうことができるが、仕事として以上の力がなく、男たちの決めたシナリオを認める本土側の権威という立場に過ぎない。一方の少女も恐らくは大人たちに言いくるめられて現在に至るわけで、その点でリブがアナを助けようとするのは、自分の子供に重ね合わせているとか自身が看護師だからとかそもそも人間だからという以上に物語を持っている。
そして、冒頭で明かされる通り、人間は各々の物語を信じている。時代柄、アナが"食事を取らずとも生きていける"という物語も村人たちに力を与えているのも、医師が"光合成人間発見?!"などと言ってるのも、彼女が"断食をすれば兄の魂を救える"と信じているのも、どれも本人たちの物語であり、最終的にそれを塗り替えることで絶望の物語に接ぎ木された希望の物語という、物語を信じることの強さみたいなものを見せつけてくる。最終的には"誰かが正しいってわけじゃないけど、アナを助けたのもまた物語である"となってしまうことすら許容している。なかなか上手いと思う。
食事をしないアナに対して、食事しまくるリブという対比も興味深く、全くの無策でアイルランドを死に追い詰めたイギリス本土がアイルランドを喰らいつくしているようにすら見えてくる。あと、アナの部屋やリブの部屋などのライティングが非常に良い。ラストで強調される"内と外"(つまりは映画の内外で"物語"の効力は同じということ)という相反する概念を強調するかのような、見事な陰影を描き出していた。
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・作品データ
原題:The Wonder
上映時間:109分
監督:Sebastián Lelio
製作:2022年(アイルランド, イギリス)
・評価:80点
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