ロルフ・デ・ヒーア『悪い子バビー (アブノーマル)』オーストラリア、母親の呪縛から逃れるとき
1993年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。ロルフ・デ・ヒーア長編四作目。アデレードの工業地帯に暮らす35歳のバビーは、虐待的で狂信的な母親フローレンスに監禁され、文字通り"飼われて"いる。外は毒ガスが充満していると言われ続け、脱走の意志は削がれていた。まるでカスパル・ハウザーみたいな話だ。そんなとき、彼の存在を知らなかった父親が帰ってくる。独り占めしていた母親を取られてしまい、外の世界からマスクもせずにやって来る、この無礼な男の登場によって虐待が過激化したために、バビーは両親を殺害して世界に飛び出す。バビーは他者の言ったことをそのまま繰り返し、ボキャブラリーに加えていく人物として描かれており、まるで社会の鏡のような抽象的な存在として様々な場所に行かされている。特に、フローレンスが狂信的だったこともあってか、教会とそれに反抗する科学者の挿話、そしてバビーが母親とセックスを強要されていたことが遠因となった母親を求める行為としてセックスを直で追い求めるという挿話が多い。そうして様々な人々の様々な語彙を獲得して引き出しを増やすことで、最終的に母親から受けた呪縛から自力で逃れられる人物としての人格を形成するに至る(下記の通り、ここでいう"呪縛"は本質的な欲望とは異なり、呪縛を捨てることと過去を捨てることも異なる)。暴力的な父親に出会ったことで、暴力的な男性性をコピーし、家父長的なパワーまで獲得したのは興味深いと思ったが、続く展開は全部同じに見えるので、流石に退屈さが勝ってしまった。ロルフ・デ・ヒーアはここまでの作品で、最終的に主人公の潜在的な"夢"が"叶うこと"を描いてきたので、本作品のラストが全てを総括しながら、母親的な人物(しかもエンジェルという名前の巨乳女性)とのハッピーエンドというのも納得。その観点で言えば、バビーにとって解放されることだけを求めていたわけではなく、"母親"と幸せな家庭を築くことを求めていたと分かる。あと、猫が死にまくりますのでご注意あれ。
・作品データ
原題:Bad Boy Bubby
上映時間:114分
監督:Rolf de Heer
製作:1993年(オーストラリア, イタリア)
・評価:60点
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