パナー・パナヒ『君は行く先を知らない (砂利道)』イラン、別れを告げる国境への旅
ジャファル・パナヒの息子パナーの長編デビュー作。ずっと映画を撮ってみたかったが父親の存在によって踏ん切りがつかなかったけど40手前でもうラストチャンスみたいになって撮りましたみたいなことを上映後に言っていたのが印象的だった(集中して聴いてなかったのでニュアンスは違うかも)。物語はロードムービーで、キアロスタミや父パナヒと同じく車の内部から世界を透かし見る構造を採用している。引くほど浮かれ騒ぐ6歳くらいの次男を尻目に、両親と20歳の長男の表情は浮かない。意味深な発言を折々にぶち込みながら、少しずつ目的地へと近付いていくと、三人の堪えきれない感情が溢れ出し始める…と書けば良い映画に思えてくるが、コミックリリーフであり"何も知らない"次男が陰鬱な物語の清涼剤や同じく"何も知らない"観客への橋渡しとなるどころか、ただただ邪魔者扱いされているのに引く(ああいう五月蠅い子供が本当に苦手というのもある)。親の言ったことをそのまま外で繰り返すような年齢なので、兄に起こる出来事について言いふらしてほしくないという思いがあり、兄に関すること以外は基本的に愛情を持って接しているんだが、終盤で遂に邪魔になって木に縛り付けている描写があり、どうして連れてきたんだ?と。両親が実際に口に出してないだけで、その瞬間を目撃しているのであれば"長男は駆け落ちした"という嘘も意味がなくなるのではないか?
序盤の車の内部のシーンでは、画面外から現れたロフストランドクラッチの持ち手部分で袋を引っ掛けたり、次男の掛け声とともに前に出された腕とは逆の方向に車が動いたり、ツュルヒャー兄弟ばりのフレーム管理をしていて感心したのだが、途中からあまり意識されなくなり、最終的に田舎の風景をバックに長回しという芸のない会話劇になって残念だった。唯一、霧まみれの谷のシーンで、スケアクロウ氏がバイクで進んだとこまで霧が晴れていく奇跡的なショットだけは良かった。
イランでの映画製作の困難さは理解した上で言わせてもらうと、なんら新規性なく父親たちの残した轍を辿り直しても仕方がないのでは…
追記
監督は上映後、この映画が兄の脱出理由を明かさないことについて、"実際に脱出しなきゃいけなくなる理由は様々あるが、脱出しなきゃいけなくなる状況の方が問題だ"としていた。ちなみに私は、鑑賞後に友人と"長男は映画を撮りたくて脱出した?"とか"兵役から逃れるため?(『悪は存在せず』でそんな話なかったっけ?)"とか言い合ってました。楽しかったです。翌日に観た父パナヒの短編で、祖母が"最近パナーが全然話してくれないのよ"って言ってて草でした。
・作品データ
原題:جاده خاکی / Hit the Road
上映時間:94分
監督:Panah Panahi
製作:2021年(イラン)