20231217
アントニオ・ネグリが亡くなった。マイケル・ハートとの共著『〈帝国〉』は世界的に読まれ、二〇一一年の米ウォール街占拠運動をはじめとする、一〇年代のグローバルな社会運動に大きな影響を与えた。わたしもロンドンのビッグベンやリバプール・ストリート(ロンドンの金融街)の広場で、テントを張ってハンガーストライキを行っている現地の若い人々をダブルテッカーのバスの車窓から眺めていたことを思い出す。あの当時は不思議な気持ちでなんとなく見ていたが、いま思い返すと「マルチチュード」の実践だったと腑に落ちる。グローバル経済において広がり続ける格差と、それに対抗するネットワーク上の形態で闘う運動の先、グローバル民主主義を推進する主体「マルチチュード」。たしかに一度はその熱狂に世界中が巻き込まれ、日本でもシールズ運動が盛り上がりを見せたし、香港の雨傘運動まで若い世代が政治運動に参加する政治の季節が訪れた。しかし、シールズは解散し、雨傘運動を主導した周庭は逮捕され、カナダに事実上亡命することになった。米トランプ政権誕生をはじめ、英のEU脱退など、その反動のように世界各国で右派勢力が増大するという、マルチチュードの限界も証明された。とは言え、時代と世界が動いたことに変わりはない。自身も逮捕され、収監されながら著述を続けた、真に偉大な思想家だったと言っていいだろう。願わくば、彼の意思を受け継ぐ思想家が新たな民主主義の可能性を見出すことを期待しつつ、冥福を祈りたい。