20240315
小川洋子『余白の愛』(中公文庫)の読書会だった。突発性難聴を患った語り手が速記記者のYと出会い、自身の記憶を速記してもらいながら再生する。ベートーヴェンの補聴器、古い屋敷の開かずの間の伝説、Yと距離を縮めながら彼女の記憶とYの存在はやがて曖昧な境界線を滲ませるように混沌としていく。
リアリズムに則した冒頭から中盤にかけての様相はクライマックスで一気に幻想的な雰囲気を帯びる。読む人間を選びそうな話だったが、『密やかな結晶』の雛形のような作品世界も垣間見られ、面白かった。参加者の方々も好印象を持っていたようで、また再読すると違った魅力を見出せそうな意見も聞かれた。