クリエイティビティと気分の深い関係
良いアイデアが浮かぶとき
良いアイデアが浮かぶのは、どんな気分の時でしょうか?直感的には、怒っている時や悲しい時などのネガティブな気分の時よりも、ウキウキしている時やリラックスしている時などのポジティブな気分の時の方が、良いアイデアが浮かぶ気がしませんか? この疑問を明らかにしてくれる研究をご紹介します。
オランダのアムステルダム大学心理学部のマタイス・バース博士らは、過去25年間のクリエイティビティと気分に関する103の論文をレビューしました。その結果、研究によって、結果にばらつきはあるものの、総じて以下のようなことがわかりました。
・ポジティブで活性度の高い「興奮」や「熱中」の状態が、クリエイティビティを生み出すのには最適である。
・ポジティブだが活性度の低い「リラックス」の状態では、あまりクリエイティビティが高まらない。
・ネガティブな気分でも、活性度が高ければ、テーマによっては、クリエイティビティを生み出しやすい。
どうやら、単にポジティブな気分ならクリエイティビティが高まるというわけではなさそうです。
クリエイティビティに大事な「活性度」
直感的には、リラックスしている状態はクリエイティビティが高まるように思えるかもしれませんが、クリエイティビティを高めるには、活性度が高い(覚醒している)ことが重要なのです。では、ポジティブな気分で、かつ、活性度の高い状態になるには、どうすれば良いのでしょうか?手軽でおススメなのは、ウォーキングです。
あのアップル創業者のスティーブ・ジョブズは、歩きながら考えたり、重要な人とウォーキング・ミーティングをすることで、多くのアイデアを生み出し、重要な構想をまとめていたというのは有名な話です。
では、歩くことが本当にクリエイティビティを向上させるのでしょうか?このことを示した米スタンフォード大学のマリリー・オペッツォ博士らの研究をご紹介します。オペッツォ博士らは、大学生48名を対象に、座っている状態と、(トレッドミル上で)ウォーキングをしている状態で、拡散的思考(たくさんのアイデアを出すときの思考)と収束的思考(1つの結論を導くときの思考)を測定するテストを行い、その効果を調べました。
その結果、座っている時よりも、トレッドミルでウォーキングしている時の方が、80%以上の参加者の拡散的思考が高まることがわかりました。一方、収束的思考については、ウォーキングの効果は見られませんでした。さらに、ウォーキングの後でも、この拡散的思考力が高まる効果が持続していました。
ウォーキングは、心拍数の上昇や自律神経活動の活性化をもたらし、覚醒水準を高めてくれますが、それがクリエイティビティの向上につながることが、この研究でわかりました。しかも、ウォーキングは屋外でなく、屋内でも同等の効果があることもわかりましたので、オフィス内で歩くだけでも十分、クリエイティビティを向上させる効果が期待できます。
ネガティブな気分もクリエイティビティに役立つ
オランダのアムステルダム大学心理学部のバーナード・A・ナイスタッド博士らの実験では、ネガティブな気分もクリエイティビティに役立つことがわかりました。この実験では、ネガティブな気分(怒り、恐れ、抑うつ、悲しみ)とポジティブな気分(幸福、高揚、リラックス、穏やか)に参加者を誘導するため、自分の過去の体験について、短いエッセーを書いてもらいました。その後、ブレインストーミングなどのタスクで創造性(アイデア数、柔軟性等)を測定しました。
結果は、下図のようになりました。
まず、活性度が低い状態では、創造性は高まりませんでした。つまり、ネガティブな気分のうち、「抑うつ」、「悲しみ」、ポジティブな気分のうち、「リラックス」、「穏やか」は、いずれも活性度が低い状態ですので、創造性は高まらなかったのです。
一方、ネガティブな気分でも活性度の高い状態、つまり、「怒り」、「恐れ」では、同じジャンルのテーマを粘り強く考え、アイデアをたくさん出すことができたのです。ちなみに、ポジティブな気分で活性度が高い、「幸福」、「高揚」では、最も柔軟な発想ができることもわかりました。
この研究から、ネガティブな気分でも活性度が高ければ、創造性を発揮するのに役立つことがわかりました。限定されたテーマ、特に、比較的シリアスなテーマ(例:環境や健康の問題など)をじっくり考え、対応策をたくさん挙げていく場面では、ネガティブな気分も役に立つようです。逆に、楽しいテーマの場合は、ポジティブな気分(幸福や喜び)の方が良いようです。
例えば、チームメンバーがイライラしていたり、萎縮している時には、比較的まじめで解決する意義の大きなテーマ(例:「社員の健康を高めるには?」、「オフィスの節電を促すには?」)で、対応策を出すブレストを行うと効果的かもしれません。