涙をあつめて湖をつくったら、必ず白鷺を呼ぶから
「私は何も上手くできないということを、分かっていたようで全く分かっていなかった。
プライドだけが高くて、認められなかった。
けれどもうあきらめることにした。
どうしようもなく弱くて、何もできない自分が当たり前だと許容することにした。
些細なことで落ち込んで、涙を流すのが私。
ひとや社会の基準に合わせたら苦しい。
弱いと認めることで、私は私らしく生きられるかもって気づいたんだよね。」
と希望に満ちた顔で彼女は言ったので、僕はよかったなと思った。
そうして、きれいにとかれた健やかな髪の毛をみて、彼女のことがすきだと思った。
ドリンクバーから取ってきたカプチーノの泡をかき混ぜながら、にこにこ笑っている彼女は続けて言った。
「どうしようもないところを、君だけは許して見守っててほしいな」
そんなこと言われなくたってそうするつもりだと彼女にちゃんと伝えて、またいつもの会話に戻った。
冷蔵庫の奥底にあるタバスコを、背伸びしながら取り出すとき。
雨の新幹線の中から、動く雲と山にかかる霧を見るとき。
月の見えない夜。
そういう時に君を思い出しては、またすきになってしまう。
「私はこれからもきっとたくさん泣く。これから流す涙をあつめて湖をつくったら、必ず白鷺を呼ぶから、君も見に来てね。」
随分と前に、彼女がそう言っていたのを思い出した。
「たとえ湖が海になるほど泣いて、カモメを呼んだとしても見に行くさ」と伝えたら、
彼女は僕をすきになってくれるだろうか。
(fiction)