愛された記憶にも、触れそうで触れないな
それは、夜の空に、宇宙ステーションが肉眼で見えた日のことだ。
はたまた、朝が夕方みたいだった日のこと。
日常がごちゃごちゃしていて、整理がつけられていなかった。
が、昔からいつもそうだということも分かっていた。
そういうときは、脳にある煎餅のようなかたまりが、ぱんっと弾けそうになる。
(雪の宿だったら、弾けても雪みたいで、きれいかもしれない。)
頭の中がいつも言葉で溢れていて、うるさくて仕方ないのも相変わらずだった。
相手に対して投げかけた言葉は、必ず自分に返ってくると分かっていても、平和な言葉を選べない。
だから彼を泣かせてしまった。
その間に、宇宙ステーションは通り過ぎてしまった。
宇宙ステーションの側を浮遊していた宇宙人が、僕らを見て笑っていた。
「どうせひとりになるから」
と、彼はきっと思っている。
僕は言葉を投げてしまうと、必ず後悔する。
正確に伝えられないのだ。気持ちに正確なんか、ないけれど。
お腹が空いているときに食べるマドレーヌみたいな日々を待っている。
レモンとバターの香りがしっかりと鼻を抜けるような、そんな日々。
香りのないマドレーヌはいらない。
悲しい日々もいらない。
言葉を伝える。
全ては、それだけなのに。
(fiction)