わたしたちへ
バナナをつまみに、ビールを飲んでいた。
最近自転車の音がすきだということに気がついたのだが、それから派生してあちこちに思考を張り巡らしていたとき、インターホンが鳴った。
隣人だった。
「空、見た?」
「見てない。なんで?」
「もう終わりだって、全部」
窓に駆け寄ると、太陽が降りてきていた。
彼と私は窓ぎわに並んで外を見た。
「ずいぶんと早いね」
「だね」
彼はさっきまで私が飲んでいた缶ビールを飲んだ。
私は冷蔵庫から新しいビールを取り出して開けた。
「そういえば、まだ自転車の音、すきでいられてる?」
「いられてるよ。いろんな音に耳を澄ましてないと、余計なことばかり考えちゃうから」
話している間にも、太陽は海と川を飲んでしまった。ビールももう干からびてなくなった。
人類は地球にいつか終わりが来ることを知っていて、彼と私はただ隣人というだけで、早すぎるのか遅すぎるのか分からないその最期を、共に過ごすことになった。
私は故郷の両親と友人を想い、それでもこの最期に悔いはなかった。
彼もまた同じ気持ちであればいいのにと思いながら、眩しすぎる街を見ていた。
(fiction)