シェイクスピアの台詞を原文で読む②「オセロ」(対訳:坪内逍遥)
この記事には別の台詞で翻訳を試みた①があるので、もしご興味持っていただけた方は先に①を読んでいただけましたら幸い。②だけでも内容としては成立はしているので大丈夫です。
というわけで、前書きにあたるものは①の記事にお任せして、早速「オセロ」(Othello)の原文を日本語訳していく。①よりも、ちょっと翻訳しづらい微妙なニュアンスのある台詞に挑戦。
ちなみに①でも書いたのだが、筆者の英語レベルは「並」なので、英語の達人は生暖かい目で見てほしい。それが無理ならばここで引き返してほしい。頼みましたよ。許してくださいよ。副題は「英語力が並でもシェイクスピアを原文で読むことはできる、できるぞ!」だ!
オセロの原文引用
第三幕第三場、主人公オセロの副官イアーゴーの台詞。イアーゴーはオセロを陥れようと、「あなたの妻であるデズデモーナが、あなたの副官のカシオと逢瀬をしている。あなたは妻にも部下にも同時に裏切られている」という旨を(親切の振りをして)伝える。これは根も葉もないイアーゴーの考えたデマで、デズデモーナとカシオは清廉潔白なのだが、彼は口八丁でオセロを信じ込ませてしまう。
原文は、それに真実味を持たせるためにイアーゴーが畳みかける一連の台詞の中のセンテンス。物語中でも大変見ごたえのあるシーンだ。
はい、読んでみよう。
まずは分からない単語を辞書で引く
①の記事では「まずは分からない単語を全部辞書で引いてください」と書いたのだが、今回の②の原文に、単語レベルで不明なものは私はなかった。前回より今回の翻訳のほうが難しいと言った理由はここにある。かの有名な "To be, or not to be, that is the question." しかり、簡単な単語のほうが、翻訳は難しい。
そのため、前回は辞書で調べていきなり翻訳していたのだが、今回はセンテンスを文節ごとに区切って、一行ずつ訳していく。ポイントになるのは下記の単語だ。
文節に分けて直訳する
これを、繋げれば、力任せ直訳の完成である。
力任せに直訳する
な、な、なにを言っているんだ、イアーゴー!
この時点では私も「何言っとんねん」と極真ツッコミをしている。でもしょうがない、力任せ直訳とはそういうものだ。ここで怯むとゴールにはたどり着けない。
代名詞がなにかを考える
前回の記事では「it」が何かを考えた。今回はit以外の代名詞が頻出するのでこれをひとつずつ解消していく。
怒涛のMen祭り。menは複数形なので、代名詞も複数形になる。
つまりすべての代名詞は「人間」「人」「男」「彼ら」あたりに置き換えて構わない。
では、それっぽくしよう。
それっぽくする
今回は3パターン考えてみた。
「seem」と「be」このふたつをどう訳すかがポイントになると思う。
上記二つを訳した上で、自分の中でしっくりくるパターンが最後のこちら。
それっぽくなった。以上です。終わり。できた。
今回は意味の通りやすさに配慮した2に対して、原文で代名詞になっている部分をぼかし直して、3を作った。また、イアーゴーがオセロの部下であることを考慮して敬語にしている。thoseはmenだが、軽蔑を込めたくて「奴」とした。
それにしても、まだまだ何を言いたいのか、意味が掴み切れない台詞なのだが、実はイアーゴは全編こういう男。簡単な事をわざわざ回りくどく言って相手を煙に巻いていきます。オセロが痺れを切らせば、イアーゴの思う壺なのだ。
坪内逍遥の訳を見てみる
ここまで自分で出来たら、他のプロの翻訳を見てみる。反省会を兼ねて。
嗚呼、流石我らが逍遥先生、カッコいいですね。おみそれしました。いわゆる逍遥節については別のnoteでも書いたのでぜひ。
逍遥訳の特徴としては、イアーゴー「らしい言い回し」、これに尽きるだろう。闊達なべらんめえ口調。言ってて楽しそうなグルーヴ感がある。
また、would they might seem none については私が「そうでないように見える」でしょうと訳したところを、逍遥版では「そう見えないようである」の意味にしている。noneがどこに掛かるかが異なっているのだが、これは逍遥さんが正しいのか、ちょっと謎だ。どちらでも似たようなニュアンスになるのだが、似て非なるとも言える。他の方の翻訳を見てもどちらのパターンもあるようで、真偽の所は最終シェイクスピアに聞くしかない。
ちょっと意訳してみる
実は私の最終の翻訳は、パターン3ではない。3の後に、ちょっとした意訳をしていて、こんな風になる。
would they might seem noneの後ろに「men」が省略されていると意図的な(あるいは都合のいい)誤読を前提に「人間には見えない」=「人間ではない」としてもいいし、「人間は中身と見かけが同じである」→「中身と見かけが異なるなら、人間ではない」というロジックだとしてもいい。
この翻訳をしたのはずいぶん前なのだが、結構気に入っている。
獣の仕業次回公演のお知らせ
獣の仕業 第十四回公演
マクベス [Tomorrow, and tomorrow, and tomorrow,]
2022年10月21日(金)〜10月23日(日)
会場:シアター・バビロンの流れのほとりにて
脚本:W・シェイクスピア 翻訳:坪内逍遥
脚色・演出:立夏
21日(金)20:00
22日(土)14:00,19:00
23日(日)13:00,18:00
※上演時間90~100分※
チケット予約フォーム
劇場観劇と、配信視聴でチケット予約窓口が異なっています。
劇場で見たい方
劇場観劇チケット:2,500円
紙脚本付き+劇場配信チケット:3,000円
※上記フォーム内で券種を選択できます。
配信で見たい方(アーカイブ視聴)
出演
マクベス/Macbeth(武将)…小林龍二
マクベス夫人/Lady Macbeth(マクベスの妻)…雑賀玲衣
ダンカン/Duncan(スコットランド王)、ヘケート/Hecate(月と魔術の女神)…長瀬巧
バンクォー/Banquo(武将)…恩田純也
マクダフ/Macduff(スコットランド貴族)…今村貴登
三人の魔女/Three Witches:
・第三の魔女/Third Witch、マルコム/Malcolm(王子、ダンカンの息子)…きえる
・第二の魔女/Second Witch、フリーアンス/Fleance(バンクォーの息子)…野崎涼子(salty rock)
・第一の魔女/First Witchシートン/Seyton(マクベスの鎧持ち)…手塚優希
あらすじ・演出ノートなど詳細
感染症対策なども記載しています。
詳細は決まり次第noteやTwitter@kmn_chan_botでお知らせいたします。
Twitterでは公演関係者たちもおのおので #獣の仕業 #獣マクベス のハッシュタグで情報や稽古場の様子を投稿しています。ぜひご覧になってください。
▼獣マクベス公演関係者リストhttps://twitter.com/i/lists/1558797824996753408