シェイクスピアの台詞を原文で読む④「マクベス」
自劇団「獣の仕業」での「マクベス」上演で使用するためにひとつの台詞を自力翻訳しようという試み。前回記事③からの続きものなので、③に書いた台詞原文の引用と前半部の葛藤は、繰り返しになるから省略する。そのためお時間のある方は先に下記を読んでいただくのが推奨である。
ざっくり言うと、始めてみたら途中で品詞か名詞か分からない単語が出てきて行き詰って挫折。明日の私に期待することにした。昨日の明日は、つまり今日だ。
で、この単語は何?
この"Creeps" の品詞が分からなくなって、思考停止してしまったのが昨晩。名詞なのか、動詞なのか、それが問題だ。最終候補はこれ。
一行前の tomorrowを主語にした、三単現「s」付与の動詞
in this petty pace に装飾される、複数形「s」付与の名詞
決めた。Creeps は名詞。私の中では名詞。
決め手は、勘だ!
品詞を決めた勘の根拠
この台詞全体がひとつの詩になっている。対象の表現のために有効だと作者が判断した場合(明示的な判断がない直感的なものも含めて)文法を無視した記述がされることがあるのはどの言語でも、大抵同じだ。
詩や台詞には、よくそのような処理がされる。いわゆる「文法的な正しさ」から逸脱しても──あるいはするからこそ──立ち現れる美しい言葉たち。それを昨日の私は文法的なルールだけで読もうとするから、手掛かりがなくうろうろしたわけだ。
じゃあ何をもって判断するかというところで、私が根拠としたのは、二行後ろにある下記の部分。
この And all our yesterdays がCreepsと対になっているのでは、と思ったのだ。いや、正確には、思うことにしたのだ。名詞・動詞、両方の選択肢が同じくらいの確度で存在し、それゆえに決めかねて、暗い中で闇雲に手を振り回した結果、合わせ技一本の最後の決め手に偶然突き当たったいうほうが正しい。
合っているかどうかは知らん。でも、これ以上の手がかりはもう見つからないだろう。Creeps and (All) our yesterdays そんなふうに、and で連結されるふたつの事柄、だとしたら。
Creepsは名詞だ。以上、ありがとう。ヨシ!
じゃあ、
もう一度、読み始めよう
前半をそれっぽくする
できた。前置詞の正確なニュアンスをつかむために③ではガチガチの訳を一旦挟んだが、結局戻した。説明十分な和訳が、必ずしも伝わる和訳というわけではない。「最後の音節へたどりつく」の「たどりつく」だけtoのニュアンスを強めに残している。
結局ほとんど戻すなら要らない工程だったんじゃないの? と思われるかもしれないが、いきなり小さい絵を描くより、大きい絵をかいて縮小したほうがキレイな絵になることがあるように、対象を描写するために一度拡大することはどんな製作にも必要だ。とはいえ確かに、英語の達人なら要らない工程だとは思う。
後半も行ってみよう
後半も前半と同じように翻訳していく。単語を調べて、直訳して、それっぽくする。本当は以下の後半部をこの記事に充てようとしていたので思惑が外れた。そのため、ここからはすこし駆け足。
単語を調べる
力任せに直訳する
代名詞が何かを考える
記事の見掛け上、さらっと書いているけれど。何度も繰り返すが自分は英語力並なので全部それなりに苦労しているよ。さあそれっぽくするぞ。
まとめてそれっぽくする
前半部と後半部でできたものをがっちゃんこして、まとめてそれっぽくする。
できた、それっぽくなった、以上だ!
いや、 以上ではない。
それっぽいだけではダメ
何故なら、今回は、獣の仕業「マクベス」で上演しようとしている台詞に採用するつもりでやっている作業だからだ。自分で翻訳できた、ヤッタァ。では意味がない。それなら、坪内翻訳でいい。だって逍遥は誰もが知る超有名文豪なんだもの。知名度も実力も折り紙付き。英語への深い理解も文筆力でもすべて負けてしまう自分の翻訳を、逍遥を差し置いて採用するからには、方法はひとつしかない。
「獣の仕業のマクベスの上演にとって、逍遥より優れている翻訳である」と自分だけでも納得できるものにする、なんとかする。これだけ。
そのためには、もう少し考える必要がある。
本番まで一か月を切ってしまった。どうなる、翻訳! 本番前日に渡したって俳優は覚えきれないぞ。
最後の一瞬に、辿り付かせてくれよ。私。
芝居、とてもいいものに仕上がっております。ぜひ見に来てください。
魔術的な身体で、運命と闘う。
獣の仕業次回公演のお知らせ
獣の仕業 第十四回公演
マクベス [Tomorrow, and tomorrow, and tomorrow,]
2022年10月21日(金)〜10月23日(日)
会場:シアター・バビロンの流れのほとりにて
脚本:W・シェイクスピア 翻訳:坪内逍遥
脚色・演出:立夏
21日(金)20:00
22日(土)14:00,19:00
23日(日)13:00,18:00
※上演時間90~100分※
チケット予約フォーム
劇場観劇と、配信視聴でチケット予約窓口が異なっています。
劇場で見たい方
劇場観劇チケット:2,500円
紙脚本付き+劇場配信チケット:3,000円
※上記フォーム内で券種を選択できます。
配信で見たい方(アーカイブ視聴)
出演
マクベス/Macbeth(武将)…小林龍二
マクベス夫人/Lady Macbeth(マクベスの妻)…雑賀玲衣
ダンカン/Duncan(スコットランド王)、ヘケート/Hecate(月と魔術の女神)…長瀬巧
バンクォー/Banquo(武将)…恩田純也
マクダフ/Macduff(スコットランド貴族)…今村貴登
三人の魔女/Three Witches:
・第三の魔女/Third Witch、マルコム/Malcolm(王子、ダンカンの息子)…きえる
・第二の魔女/Second Witch、フリーアンス/Fleance(バンクォーの息子)…野崎涼子(salty rock)
・第一の魔女/First Witchシートン/Seyton(マクベスの鎧持ち)…手塚優希
あらすじ・演出ノートなど詳細
感染症対策なども記載しています。
詳細は決まり次第noteやTwitter@kmn_chan_botでお知らせいたします。
Twitterでは公演関係者たちもおのおので #獣の仕業 #獣マクベス のハッシュタグで情報や稽古場の様子を投稿しています。ぜひご覧になってください。
▼獣マクベス公演関係者リストhttps://twitter.com/i/lists/1558797824996753408
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