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魔術とは、魔術的身体とは。

 なんて怪しく魅惑的なタイトルなんだろう「魔術」。痺れる。もうこれだけで痺れる。美味しそうな匂いがする。
 皆さんは、魔術のこと、信じているだろうか。
「魔術~?」とニヤ付く人もいるだろう。何を言っているんだ、と思う人も、きっといるだろう。
 私は、結構、信じている(理由は後で書こうと思う)
 今回はそんな「魔術」のお話。

魔術的犬神家

 今月10月に上演する獣の仕業「マクベス」の上演の演出ノートに私はこんなことを書いた。

獣の仕業では劇団での既存の身体表現に加えて、実在する魔術理論や贖罪規定の作法を採用し、
舞台上に「魔術的身体」を表現する。

 なんだかね、思い切ったことを書いてしまった。でも、これを書くからにはちゃんと私も魔術を調べたのだ。図書館を駆けずり回り、こう尋ねた。
「小説やフィクションなどの世界ではなくて、現実に、実際に行われた実績のある魔術の理論や作法を記した本はありますか?」
 我ながら最初は何を言っているんだろうと思ったが、自分で探すのはどうにも無理だったのだ。でもどうしても手に入れたかった。こういうとき、図書館という場所は本当に素晴らしくて、受付の方は私に返す刀こういった。

「対象の国はどちらがよろしいですか?」

 このとき「西洋東洋問いません、すべて。」と愚かな回答をしてしまったお陰で、私の手元には一時期20冊以上の魔術本がある状態になったのだが、それはまた別の話。

魔術的身体のこと

魔術的触診

「マクベス」を上演するにあたり私が選んだ魔術はイギリス発祥のとある魔術結社の実践理論と、中世の贖罪規定である。
 前者の魔術実践理論については、実際の理論からすこしアレンジを加えて、獣の仕業の舞踏的表現と組み合わせた。魔術的「身体」と言っているのはそのあたりだ。実際、稽古を進めてみて、獣の仕業の身体性と魔術実践の身体性は驚くほど親和性が良かった。最早最初から我々、魔術結社だったのかもしれない。
 日常生活に現れない「何か」を身体で表現しようとする作法、その点で、魔術と舞踏の共通点は多い。日常動作とは異なる身体。等身大の動きに比べて、より過剰で、時により微細な感覚。いずれもこれまで獣の仕業がやってきた「リアルよりもリアリティを」の拡張身体に他ならない。

魔術的精神のこと

魔術的屈伸

 魔術を調べる中で分かったこと。この世には想像以上の魔術があるということ(それはもしかしたら、科学の歴史よりも膨大に)。
 そうして、もうひとつ。魔術の歴史のすぐ隣には、魔術を裁く歴史もあったということ。魔術の歴史は、魔術弾劾の歴史とほぼイコールだった。私はもともと「マクベス」に魔術理論を取り入れるつもりで図書館を訪ねたが、調べていくうちに贖罪規定にも同じくらい興味を持った。魔術を使う者や魔術を信じる者たちが裁かれ、罪の贖い方を記した規定、それが贖罪規定。
 私は、贖罪規定こそが、当時の魔術が「信じられるもの」「おそろしいもの」とする証明そのものだと感じた。この規定を作成したものは(もしかしたら魔術を行っていた者と同様あるいはそれ以上に)魔術を信じていた。規定のひとつを引用する。

死体が横たえられているとき、川まで走って行って密かに器に水を満たし、棺の中にその水を撒き、ある種の治療のために行う。これを信じるものは、12日間、パンと水だけで過ごさなければならない。

死者への迷信的行為より

 このような規定が何十もある。現代に生きる私にとって、正直「その程度のことで」と素朴に思ってしまうものも多かった。私はこれらの贖罪規定を読んだこのとき、逆説的に魔術というものを信じたと言っていい。いや、正確には、人々が信じていた魔術という「作法の効能」を信じたのだ。多分それは皮肉でもあるけれど、魔術の正しさは贖罪規定が証明する。
 魔術の実践理論と、贖罪規定。私はこの二つの作法を芝居に取り入れ、実践することに決めた。

魔術的見切れ

 魔術の作法を信じるとはどういうことか。たとえば、電子レンジを想像してほしい。扉を開け中に温める対象の物質を入れ仕様通りにボタンを押す。すると決まった時間で中の物質が熱を持つ。これは科学だ。ところが聞いたところによると「なぜ電子レンジの仕組みで物質が熱を持つのか」については原理が解明されていない領域があるそうなのだ。
 でも私たちは、扉を開けて中に温める対象の物質を入れて仕様通りにボタンを押すと物質が温まることを知っている。何故そうなるかは説明できない私のような者も、そうなることを信じている。二回に一回温まらないことがあるかもしれないと(手持ちの電子レンジ自体が壊れていない限り)思う人はいない。これは、これまでの人類が繰り返してきた作法があるからだ。
 電子レンジが温まるという科学は、電子レンジの作法が証明する。

 では、人の運命を左右する魔術の証明は?
 それを実践してきた人々の作法と、それをおそれ、罰してきた贖罪の作法が、きっと証明してくれるはずだ。私はその作法を、舞台上で実践してみようと思っている。
 そして、魔術的身体には、魔術的精神が宿る。
 逆ではない。あくまで、身体は精神に先立つ。表象は常に意識に先立つものだ(これは昔からの私の信じる哲学なので、また別の機会に)

獣の仕業次回公演のお知らせ

獣の仕業 第十四回公演
マクベス [Tomorrow, and tomorrow, and tomorrow,]
2022年10月21日(金)〜10月23日(日)
会場:シアター・バビロンの流れのほとりにて
脚本:W・シェイクスピア 翻訳:坪内逍遥
脚色・演出:立夏

  • 21日(金)20:00

  • 22日(土)14:00,19:00

  • 23日(日)13:00,18:00

  • ※上演時間90~100分※

チケット予約フォーム

劇場観劇と、配信視聴でチケット予約窓口が異なっています。

劇場で見たい方

  • 劇場観劇チケット:2,500円

  • 紙脚本付き+劇場配信チケット:3,000円

  • ※上記フォーム内で券種を選択できます。

配信で見たい方(アーカイブ視聴)

出演

マクベス/Macbeth(武将)…小林龍二

マクベス夫人/Lady Macbeth(マクベスの妻)…雑賀玲衣
ダンカン/Duncan(スコットランド王)、ヘケート/Hecate(月と魔術の女神)…長瀬巧
バンクォー/Banquo(武将)…恩田純也 
マクダフ/Macduff(スコットランド貴族)…今村貴登
三人の魔女/Three Witches:
・第三の魔女/Third Witch、マルコム/Malcolm(王子、ダンカンの息子)…きえる
・第二の魔女/Second Witch、フリーアンス/Fleance(バンクォーの息子)…野崎涼子(salty rock)

第一の魔女/First Witchシートン/Seyton(マクベスの鎧持ち)…手塚優希

あらすじ・演出ノートなど詳細

感染症対策なども記載しています。

詳細は決まり次第noteやTwitter@kmn_chan_botでお知らせいたします。
Twitterでは公演関係者たちもおのおので #獣の仕業 #獣マクベス のハッシュタグで情報や稽古場の様子を投稿しています。ぜひご覧になってください。

獣マクベス公演関係者リストhttps://twitter.com/i/lists/1558797824996753408

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