顧問弁護士が内部通報の外部窓口になっても良いか?
2022年6月の改正公益通報者保護法の施行を踏まえ、本稿では、時々耳にする「顧問弁護士が内部通報の外部窓口になっても良いものか?」という点について、少し考えてみたいと思います。
この話は、特に弁護士間でよく話題になるのですが、結論としては、外部窓口は顧問弁護士とは別の弁護士とすることが望ましいと考えます。ただし、当面の措置として外部窓口を顧問弁護士に依頼することは考えられますが、それでは内部通報制度が機能しない場合があり、よく手当てを考えておくことが必要ということになります。
現状、顧問弁護士が窓口になっている場合が多い
我が社の外部窓口は顧問弁護士だけど何か問題ある?、という方も多いと思いますが、実際、消費者庁が平成28年に実施した調査によると、社外窓口を採用している事業者の49.2%が、顧問弁護士を社外窓口としているとのことでした。(消費者庁「平成28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書」65頁)
顧問弁護士は、会社の内情に精通している場合が多く、内部監査部門等との人間関係もできているという状況もあるため、内部通報があって何かを調査するといった場合に、比較的迅速かつ効率的な対応が可能となるというメリットがあると考えられます。また、有力な弁護士であれば、経営陣に対して一定の影響力をもっている場合もあるでしょう。経済的に見ても、顧問料の範囲に含まれることもあるかもしれません。
通報が深刻な事案の場合には、社内関係者にインタビューする等、社内調査を行うこともありますが、これも一般的には、顧問弁護士事務所に依頼することが多いのではないでしょうか。会社側も、初見の弁護士にスポットで調査を依頼した場合、会社の内情を知らないために一から仕組みを説明したりする必要があり、時間もかかり、費用がかさむという懸念が大きいかと思います。その点、勝手知ったる顧問弁護士であれば、融通が利いて、予算内で上手く処理してくれるということもあるかと思います。
顧問弁護士に通報しても意味がない?
ただし、顧問弁護士が外部窓口になることについては、平成28年に消費者庁が公表した公益通報ガイドラインにおいても、中立性・公正性に疑義が生じるおそれや利益相反が生じるおそれがあることが指摘されていました。
内部通報者は、多くの場合、会社が何らかの是正措置を講じることを期待して通報することになります。特に、外部窓口の弁護士に通報するような場合には、その弁護士が会社に働きかけて、事態が何らか改善するのではないかと考えるでしょう。
しかしながら、外部窓口である顧問弁護士は、あくまで会社側の存在です。したがって、外部窓口として主体的に動くということは基本的にはなくて、調査をすべきかどうかも含め、会社側のカウンターパート(コンプライアンス部門や内部監査部門)に判断を委ねる、ということになるでしょう。会社側の動きが鈍くても、独自に顧問弁護士が調査を開始する、ということは普通しません。
次に、内部通報制度に内在する問題とも言えますが、内部通報者と会社との間に利益相反が生ずることがあります。例えば、上司のパワハラ問題一つを取ってみても、職場環境の安全配慮義務の観点からは、当該従業員と会社の間には利益相反があるともいえます。この場合でも、顧問弁護士は、あくまで会社側の立場でモノを考える必要があります。
このように、内部通報者は、あたかも自らが依頼しているかのように外部窓口の弁護士に通報しているものの、顧問弁護士は会社側の存在であり、(極論すれば)会社側に内容を伝達して橋渡しをすることが主たる役割に過ぎず、ここには認識のギャップが生じやすいということになります。
それでは外部窓口を顧問弁護士とすると内部通報制度の意味がないではないか、と思われるかもしれませんが、当然ながら、内部通報があった場合にやり取りをする過程では、顧問弁護士は会社の立場から法的な見解を述べ、場合によっては調査実施を進言することもあります。通報者にとってみても、会社の人間には言いにくいことも比較的言いやすい、匿名性も確保されやすい、ということもあります。その観点では有用なものということはできるでしょう。
さらに内部通報制度を実効性を高める流れ
2022年6月の改正公益通報者保護法では、これまで以上に内部通報制度の実効性を高めることが求められています。
その背景にあるのは、会社が実効性ある内部通報制度を整備することによって、法令遵守の推進や組織の自浄作用の向上に寄与し、ステークホルダーや国民からの信頼の獲得に資する、そして、それによって事業者の社会的責任を果たすとともに、持続可能な社会の形成に寄与する、という考え方です(後記「解説」2頁)。要するに、サステナビリティ経営の考え方ですね。
従来、会社法上の内部統制システム構築義務や、CGコード上の原則コンプライといった観点から内部通報制度を考えることが多かったかと思いますし、従前の常識ではそう位置付けるのが自然でしたが、昨今の流れは、内部通報制度を整備することによってステークホルダーや社会の信頼の獲得につながるという位置づけに変化してきています。そこでいうステークホルダーには、従業員も、取引先などサプライチェーンも入ってくるという考え方になってきているのです。
当面は、改正公益通報者保護法の「指針」と「解説」の項目に沿って検討することにはなるかと思いますが、根底にある考え方が上記のようなものであることについて、意識する必要があります。そして、そのような考え方を取った場合に、顧問弁護士を外部窓口としているままでよいのかを真摯に見直さなければならない、というのが今回のテーマかと思います。
改正公益通報者保護法の指針と解説
ここで、具体的に、今回の公益通報者保護法改正に際して、消費者庁が公表した公益通報者保護法の措置に関する「指針」と「解説」を参照してみましょう。今回の内部通報制度の見直しに当たっては、更にこれらの資料を参照する必要があります。
この「解説」において、顧問弁護士に関係する利益相反排除に関する措置として、以下のような記述があります(後段の記述は、平成28年のガイドラインにもあった内容です)。
したがって、改正公益通報者保護法の施行後、法令が求める内部通報体制の整備を行う場合で、顧問弁護士を外部窓口としている場合には、「顧問弁護士であること」の明示を検討する必要があるでしょう。この辺りも含めて、情報開示が求められますので、制度のアナウンスの仕方を工夫する必要があると思います。
どう考えれば良いのか?
この問題は、結局、内部通報の外部窓口にどこまでの機能を持たせるか、ということと関連しているとも言えます。
【従来型】会社の所轄部門には直接報告しにくいことも拾いつつ、プラスアルファで法的意見も述べる程度の「窓口」として位置付けるのであれば、従前と同様に顧問弁護士で良い、むしろ顧問弁護士の方が適しているともいえるかもしれません。
【機能型】上記1を一歩進めて、会社から一定程度独立した「外部窓口」とし、是正措置も含めて会社への提言を行えるような実質的な位置づけを持たせるのであれば、顧問弁護士以外の弁護士を設置するという選択肢も検討の余地があります。この場合、社内には、顧問弁護士ではない弁護士が対応する旨をアナウンスする、ということが考えられるでしょう。
実情を言えば、内部通報のすべてが有益な公益通報かというとそんなことはなく、単なる人事や仕事上の不満が大半、ということもあるかと想像します。その実情に触れている担当者としては、この議論への抵抗感はあるかもしれませんが、それでも、こうした制度が整備されていることが長い目で見れば信頼獲得につながる、という視点が必要かと思います。そして、それは企業のトップレベルで認識していく必要がある事項といえます。
顧問弁護士の立場で
顧問弁護士として内部通報制度の外部窓口となった場合には、基本的には会社が有する自浄作用の機能に依拠する制度であり、通報者の代理人として行動するわけではありませんので、そのことを通報者の方にはよく理解していただく必要があるかと思います。
万一、経営者不正のような通報があった場合には悩ましいですね。顧問弁護士はあくまで経営陣に選定された存在だからです。内容次第なので一概に言えませんが、究極事例では、社外取締役や監査役との連携を図っていくということになるのかと思います。
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