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ヒマラヤ聖者が伝授する《最高の死に方&ヨーガ秘法》

最近のフィットネスジム、カルチャースクールのほとんどに入っているヨガ教室ですが、「ヨガ」教室はあっても「ヨーガ」教室を見かけることは滅多にありません。

一般には「ヨガ」の方が広く知られていますが、正確にサンスクリット語で発音するならば「ヨーガ」の方が正しく、また、大半のヨガ教室はアメリカ経由のフィットネスとしてヨーガを伝えており、ヨーガ本来の行法や教えを伝える教室は多くはないようです。

本書はインド古来より伝わるハタ・ヨーガを長年、修めてきた成瀬雅春氏が筆をとったヨーガ小説となります。

現在、74歳になる著者は日本のヨーガ指導者の最古参の1人に挙げられ、今までヨーガの入門書や技術書など、多数の著書を出版してきましたが、その中でも、本書はフィクションという珍しい体裁で出版されました。

本書の内容ですが、バックパッカーの青年が旅先のインドでヨーガと出会い、その修行を通じて、成長を遂げていく一種のビルドウンクス・ロマン(教養小説)としても楽しめるのですが、実はそれだけではありません。

本書のタイトル「ヒマラヤ聖者が伝授する~」にもある通り、物語に出てくるヒマラヤに住むプラーナ・ギリと呼ばれる聖者が語るヨーガの奥儀とその行法がいくつも紹介されており、ヨーガの濃密なエッセンスが本書にはぎっしりと詰められているのです。

なぜ、小説という形で出版されたのかなのですが、本書、一時期、世間を騒がせた某宗教団体も真っ青のヨーガの秘儀がこれでもかと記載され、フィクションという形をとらなければ、多くの人に誤解をあたえかねない側面があるからかと自分は考えました。

本書では、ヨーガは宗教ではなく、自分を知るためのものであるとしています。

ヨーガといえば、アーサナーと呼ばれる様々な形のポージングが有名ですが、これも徹底的に自分自身の肉体をコントロールし、その先にある心や意識といった領域まで自在にコントロールし、自分自身を知り尽くすためにあるとも言われています。

最終的には常識では不可能ともいえる死さえも、自分自身でコントールし、自然死を迎える行法がヨーガにはあると本書では紹介されていました。

他にもルンゴムと呼ばれる空中歩行、自らの心臓の鼓動を止める行法など、いくつものヨーガのテクニックが圧倒的なリアリティをもって記述されています。

本当にそんなことが出来るのか、出来ないのかの判断は読者に委ねられていますが、読み進めてゆくとさもありなんとなってくるのだから、不思議です。

また、本書には著者のヒマラヤ山中での写真がいくつか掲載されているのですが、標高4000m以上の岩場や氷河の上でのヨガのポーズが撮影されており、かなり常軌を逸しております。

ゴームクとよばれ、ヒマラヤ山中の聖地とされる場所が著者の長年の修行の場となっていたそうなのですが、土石流や氷壁の滑落が頻繁におこり、死人も出るため、一般の人は近寄らない場所となっております。

このゴームクが小説の舞台にもなっており、ゴームクの写真を見る限り、相当な胆力がなければ、居ることすら難しい危険な場所という雰囲気が漂っていました。

私自身も実際にヨーガを学んでいるのですが、ヨーガに興味を持ち始めたそもそものきっかけは、ヒクソン・グレイシーという格闘家の存在がありました。

ヒクソン・グレイシーは当時、最盛期であった総合格闘技の世界において400戦無敗の男して謳われ、実際に無敗のまま現役の選手生活を終えました。

そして、そのヒクソンの強さの一端が長年、修行してきたヨーガにあると言われていたのです。

若かりし頃のヒクソンはヨーガや呼吸法、各種の瞑想法を学んでおり、正確にはヨーガといえるかわかりませんが、アニマルエクササイズと呼ばれる野生の動物になりきるワークがあり、或る時はサル、犬、鷹、蛇、ワニ、その他の様々な動物の動きを模倣し、野生の本能を再現するというものを実践していたそうです。

ある日、ヒクソンはこのワークをやり始めて、気づくと道場の窓枠にへばりつくように乗り続け、いつの間にか1時間以上が過ぎていたといいます。

「なんだって窓枠にいるんだ」と思い、部屋を見渡すと、師が泣いていたそうです。「ここまでやった人は初めてだ」といってその師は涙を流していたのです。

まったく人間としての意識がないまま、つまり、動物?昆虫?になりきり、ずっと窓枠にヒクソンはへばりついていたのでした。

私はこのエピソードやヒクソンが大好きだったので、ヨガを学び始め、その流れで知ったのが著書の成瀬雅春氏だったのです。

本書、このヒクソン・グレイシーのエピソードに負けず劣らずのお話がてんこ盛りとなっています。

フィクションとなっていますが、すべて著者の実体験に基づくエピソードではないかと自分は睨んでいます。

小説としても十分に面白いので、ヨーガに関心のある人もない人も楽しめるのではないでしょうか。

昨今、生き方を指南する書物を多くみかけますが、死に方を伝える本はなかなか珍しいので、興味の湧いた方はどうぞご一読ください!


『生きていることは楽しい。死ぬことはもっとスリリングだ』 桐生大悟





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