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お店選びは「近いから」「安いから」だけじゃない!意外な消費行動の裏側

「今日の夕飯、どこで買おうかな?」。誰もが一度は考えるこの日常的な問いかけ。実はこのシンプルな行動の裏には、私たちの想像を超える複雑な心理や社会経済的な要因が隠されています。本記事では、お店選びの意外な事実に迫るべく、複数の研究論文を紐解いていきます。

「近さ」よりも「安さ」?  -生活者のリアルな声-

2018年にリリアン・マクネル氏が発表した研究(1)は、地方と都市に住む低所得者層の女性たちの食料品購入行動を、詳細な地理データと丁寧なインタビューを組み合わせた手法で分析しました。その中で。調査に参加した多くの母親たちが、最寄りのスーパーマーケットではなく、遠く離れたお店を選んでいる事実が浮かび上がってきました。私の場合、自宅や職場の近くのスーパーマーケットがどこもそんなに価格差がないので、近いお店を選びがちなのですが、値段は重要ですよね!

その距離は、なんと最寄りの店舗の2倍以上になることも。インタビューを通して浮かび上がってきたのは、彼女たちが日々の生活の中で、いかに賢くお金を使おうとしているかという姿でした。より安い価格を求めて足を延ばしたり、限られた収入や食料費補助(SNAP)を最大限に活用できるお店を選んだり。また、公共交通機関の利用しやすさも、お店選びの重要な決め手となっていました。

この研究から分かるのは、私たちが「フードデザート」といった問題について考える際、単に「お店が近くにあるかどうか」という表面的な情報だけでは、実態を捉えきれないということです。そこに住む人々の生活環境、経済状況、そして移動手段といった、より深い視点を持つことの重要性を教えてくれます。そして、食料へのアクセスを改善するためには、単に食料品店を増やすだけでなく、所得向上支援や交通インフラの整備といった、根本的な解決策が必要であることを示唆しているのではないでしょうか。

価格、品揃え、そしてお店の雰囲気 -多様な動機が交差する-

お店選びの理由は、価格だけではありません。1993年に発表されたフォーザリンガム氏とトレウ氏の研究(3)は、スーパーマーケットが持つチェーンとしてのイメージが、消費者の選択に大きな影響を与えることを明らかにしました。彼らは、消費者の購買データと統計モデルを用いて分析を行い、チェーンのブランドイメージが、お店の広さや競合店の存在感と同じくらい、あるいはそれ以上に重要な要素となる可能性を示唆しました。

さらに興味深いのは、所得層や人種によって、特定のチェーンに対するイメージが異なるという点です。経済的に余裕のない層は、少しでも安い価格を求めて遠くまで足を運ぶ傾向がある一方、所得の高い層は、多少価格が高くても便利さや快適さを重視する傾向が見られました。この結果は、消費者がお店を選ぶ際、単に値段だけを見ているのではなく、それぞれのライフスタイルや価値観に基づいて、総合的に判断していることを示しています。

また、2016年のプローグ氏とラコフスキー氏の研究(4)でも、消費者は必ずしも一番近いお店を選ぶわけではなく、健康への意識、味の好み、食品の価格、収入、そして買い物のしやすさなど、様々な要因を考慮して食品を選んでいることが強調されています。健康的な食品が手に入りやすいか、品質が良いか、そして無理のない価格で提供されているかどうかが、お店選びの重要なポイントとなるのです。

もちろん、いざお店に行ってみたら欲しい商品がなかった、という経験は誰にでもあるでしょう。サプライチェーン管理に関する研究(2)では、このような「ストック切れ」が、顧客満足度を大きく損なう原因となることが指摘されています。最悪の場合、顧客は二度とその店を利用しなくなるかもしれません。2004年の研究(7)では、品切れが企業にとって大きな損失につながるというデータも示されており、小売業者にとって、いかに効率的な在庫管理が重要であるかが分かります。

日常生活の延長線上にあるお店選び -移動手段とルーティンの影響-

私たちのお店選びは、日々の生活における行動パターンとも深く結びついています。2013年にイギリスで行われたスシロ氏らの研究(5)は、コンビニエンスストアへの来店手段に着目しました。2000人以上の顧客データを分析した結果、他の用事を済ませるついでに店に立ち寄る、いわゆる「ついで買い」が、交通手段の選択に大きな影響を与えることが明らかになりました。驚くべきことに、お店の周辺の人口密度や曜日、購入する商品の種類は、交通手段の選択にはあまり影響しないという結果も出ています。これは、人々が日々のルーティンの中で、いかに効率的に買い物を済ませようとしているかの表れと言えるでしょう。

さらに、2016年のディサンティス氏らの研究(6)は、黒人女性の食料品購入パターンを、彼女たちの週ごとの行動ルーティンに重ね合わせるというユニークな手法を用いて、お店選びの理由を探りました。調査に参加した女性たちは、平均して6つもの異なるお店で買い物をし、かなりの距離を移動していました。この研究から、自宅や職場からの近さだけでなく、日々の通勤経路や子供の送り迎えの途中にあること、お店のレイアウトが分かりやすいこと、他の店と併設されていることなど、時間を節約できる要素が、お店選びの重要な動機となることが示唆されています。人々は、自宅のすぐ近くのお店だけでなく、それぞれのライフスタイルに合わせて、様々な場所で買い物をしているのです。

まとめ -お店選びは奥深い消費者行動の縮図-

これらの研究を通して見えてくるのは、私たちがお店を選ぶ際、単に「近いから」という理由だけで意思決定しているわけではない、ということです。価格、品揃え、お店の雰囲気、そして日々の生活動線。これら様々な要素が複雑に絡み合い、私たち一人ひとりの購買行動を形作っています。

小売業者にとっては、消費者の行動を深く理解することが、より効果的な店舗戦略、魅力的な商品構成、そして適切な価格設定につながります。また、都市計画においては、地域住民のニーズに合った商業施設の配置や、利便性の高い交通インフラの整備を考える上で、これらの研究知見は非常に貴重な情報源となります。何気ないお店選びの背景にある、奥深い消費者行動を理解することは、私たちの生活をより豊かにするヒントを与えてくれるかもしれません。

参考論文

  1. MacNell, L. (2018). A geo-ethnographic analysis of low-income rural and urban women's food shopping behaviors. Appetite, 128, 311-320.

  2. Wagner, M., & Meyr, H. (2005). Food and Beverages. In Supply Chain Management and Advanced Planning (pp. 371-388). Springer.

  3. Fotheringham, A., & Trew, R. (1993). Chain Image and Store-Choice Modeling: The Effects of Income and Race. Environment and Planning A.

  4. Ploeg, M., & Rahkovsky, I. (2016). Recent Evidence on the Effects of Food Store Access on Food Choice and Diet Quality.

  5. Susilo, Y., Hanks, N., & Ullah, M. (2013). An exploration of shoppers travel mode choice in visiting convenience stores in the UK.

  6. DiSantis, K. I., Hillier, A., Holaday, R., & Kumanyika, S. (2016). Why do you shop there? A mixed methods study mapping household food shopping patterns onto weekly routines of black women. International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity.

  7. Corsten, D., & Gruen, T. (2004). Stock-Outs Cause Walkouts.

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