【カナダ×オーストラリア比較調査】 私たちの「まちの緑」はどう思われている?
街の中にある公園や街路樹などの「まちの緑」は、見た目の癒やしや健康面への良い影響から、多くの人が「大切だ」と感じています。でも実際に、その“感じ方”は都市ごとにどう違うのでしょうか。
今回ご紹介するのは、「カナダのトロント大都市圏(GTA)とオーストラリアのメルボルン大都市圏(GMA)で、人々がまちの樹木や緑地にどんな価値観・信念・態度を持っているか」を数値化し、比較した研究です。論文タイトルは“Measuring and modelling values, beliefs and attitudes about urban forests in Canada and Australia”、筆頭著者はCamilo Ordóñez Baronaさん。
本研究が注目されているのは、これからの都市づくりや緑化政策にとってヒントになるから。私自身も「木が多い街が好き」という気持ちはあるけれど、一方で「管理が行き届いてないと不満を感じるかも…」と疑問を持っていました。では、その結論はいかに?
研究の狙い
なぜ「まちの緑」に注目?
研究者たちの主張によると、都市部の樹木や緑地(アーバン・フォレスト)は多くの恩恵をもたらしてくれる一方、落ち葉で道路が汚れるなど、ネガティブな側面も見逃せません。特に、緑化政策を進める行政側としては、「住民が本音ではどう感じているのか」を把握することが重要。しかしこれまでの研究は、単一の都市だけを対象にしたり、抽象的なイメージ調査にとどまるケースが多かったそうです。
そこで本研究では、「人がどのような価値観(何を重要だと思うか)や信念(どんな利点・欠点を感じるか)を持ち、どんな態度(満足度や行政への信頼)につながっているのか」を体系的に測定し、さらに都市間で比較することを試みました。
抽象的な価値観と具体的な態度
研究チームは「抽象度の違い」に着目しています。価値観や信念は、比較的変わりにくい“深い意識”ですが、具体的な態度や好みは影響されやすいとか。例えば、「自分は自然と深くつながっている」と思う人ほど、都市の木を好意的に感じるだろうし、街に植えられた樹種や管理方法に対して強い不満を持つ人もいるかもしれない――そんな仮説を検証しようというのが狙いです。
データ収集と分析手法
GMAとGTAってどんな街?
研究者たちは、オンラインアンケートを実施し、メルボルン(GMA)で約1700人、トロント(GTA)で約1700人の回答を集めました。両大都市圏ともに多文化でありながら、気候や植生が異なるという対照的な条件が興味深いそうです。
質問の内容は「まちの木をどれほど重要だと思うか」「木がもたらすプラス面・マイナス面」「行政にどのくらい信頼を寄せるか」など多岐にわたりました。加えて、回答者それぞれが「主観的にどれだけ幸せか」「自然とのつながりを感じるか」なども尋ね、さらに性別や年齢、居住年数などの基本情報も取得。こうした多角的なデータをもとに、多種多様な統計モデルを組んで分析しています。
どうやって結果を整理したのか
研究者の主張によると、まずはアンケートの回答を「価値観」「信念(肯定・否定)」「態度(満足度・信頼度)」に分類。それぞれのスコアを比較し、さらに「この人は家の前に大きな木があるか」「どれくらい木の知識があるか」などの要因も合わせて、都市間でどう違いが出るかを統計的に検証しました。執筆者の私としては、数千ものデータをここまで丁寧に扱うのは相当な手間だろうと想像します。
結果
まちの木への思いはポジティブが大半
まず、抽象的な「まちの樹木に対する価値観・信念」は、メルボルンもトロントも概ねポジティブで、「緑がもたらす恩恵を信じている人が多い」という傾向が確認されました。研究者は「木を重要だと考える想いは、都市を問わず非常に強い」と述べています。
一方、具体的な態度(行政への信頼度や植え方への満足度)は興味深い差がありました。たとえば、行政の管理体制を信頼する傾向は、トロントよりメルボルンのほうが高め。しかし「実際に植えられている木の種類やメンテナンスにどれだけ満足しているか」では、トロントのほうが高かったとのことです。研究者たちは「住民が何を重視するか、どんな経験をしているかによって、満足度や信頼の度合いが変化する」と分析しています。
性別・自然との結びつき・幸福感も影響
研究者によると、性別が女性のほうが木を大切に考える意識が高く、さらに「自然とのつながりを日頃から強く感じる人」「自分は幸福だと感じている人」も、よりポジティブに捉えやすいといいます。逆に、落ち葉被害や日当たりの悪さなどのネガティブ面をしきりに訴える人は、行政に苦情を入れた経験があったり、庭先の木に不満を感じていたりすることが多かったそうです。こうした点は都市をまたいでも共通していたようで、著者たちは「多様な社会要因と人々の意識が密接に結びついている」と強調しています。
結論と今後の展望
住民の「本音」に応えるには?
研究者は、「両都市とも、まちの緑を大切に思う価値観は共通しているのに、態度の部分では差が大きい」とまとめています。つまり「緑を増やせばみんな満足」というほど単純ではないということです。どの樹種をどのように植え、管理のプロセスを住民にどう説明していくか――そこが住民の信頼感や満足度を左右するのだと、論文の中で強調しています。執筆者としても、確かに街路樹が増えれば嬉しいけれど、剪定が遅れていたり、枯れた木が放置されていたりすると「やる気ないのかな?」と不満が募りそうだと感じます。
多様な背景を持つ都市へも拡大を
研究者たちは「今回の比較は、どちらも英語圏で比較的豊かな都市だが、結果として抽象的な価値観は似通っていた」と話しています。今後は気候や文化がもっと異なる街にも調査を広げることで、「普遍的な傾向と地域特有の課題」を切り分けやすくなると期待するそうです。そして、その知見をもとに住民との対話型の緑化政策を検討することで、より満足度の高いまちづくりにつなげたいというのが最終目標だとしています。
参考情報・ライセンス表記
論文タイトル: “Measuring and modelling values, beliefs and attitudes about urban forests in Canada and Australia”
著者: Camilo Ordóñez Barona, Dave Kendal, Stephen J. Livesley, Tenley M. Conway
掲載誌: Cities, Volume 155, December 2024, 105406
本論文はCC BY 4.0ライセンスで公開されています。