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吉田秋生『海街diary』感想(映画版も)


少女漫画・強化期間

ということで、おそらく自分好みであろう匂いはプンプンしていた吉田秋生『海街diary』を、満を持して読みました。人生初・吉田秋生です。





10/31(水)

1巻

kindle期間限定無料が今夜までだったので駆け込みで読んだ。
めっちゃ良かった…… やっぱり自分好みの漫画だった…………

1巻まとめ

基本設定としては「社会人の三姉妹が同居する鎌倉のデカい屋敷に、腹違いの中学生の妹が引っ越してくる話」で、そんな四姉妹を主人公としたオムニバス形式の連作短編集、といっていいだろう。

この1巻には表題作を含む3つの話が収録されており、最初の「父の葬式のために山形の温泉郷に出かける、四女すずとの出会いの話」と、3つ目の「すずが鎌倉の中学校とサッカーチームに入り、難病で片足を切除することになったキャプテンに他の男子たちと寄り添う話」がめちゃくちゃ良かった。ふつうに泣いた。

親の死とか、大人びた子どもがようやく見せる涙とか、難病とか、要素としてはかなーりベタに泣かせてくるものなんだけど…… なんていうのか、漫画の「雰囲気」がいいんだよな。かなりコメディ要素も強くてケラケラとしたトーンで進んでいるのとか、舞台となる鎌倉という土地の風土と文化と歴史に寄り添った描写がすばらしい。ふとしたコマで描かれる道端の風景がすごくいい。

単行本ラストページに作中で出てきた鎌倉の舞台マップが付いていて、思わず「ずる~~~!」と言っちゃった。こんなの鎌倉に行きたくなるに決まってるだろ!!

ひとつの田舎町を舞台にした理想の物語のひとつかもしれない。ちょっとエロゲっぽいというか…… 『フォークソング』とかに少し似ている。オムニバス形式だし。理想のエロゲ(エロ抜き)といってもいい。2006年連載開始ということで、確かにエロゲ全盛期と被ってはいる……。

すずちゃん、スペックだけ見てると俺TUEEE系主人公だな。両親が死んでいて腹違いの姉たちに引き取られた可哀想な境遇やら女子中学生ということやらで、そうしたイヤさはまったくないが。

これって少女漫画なのか?? あんまり「っぽさ」はないと思うが。でもたしかに、フキダシ外/コマ外で台詞やコメント(ツッコミ)を書き込むノリなんかは少女漫画の文脈なのか。女だけの園。実質『四つ子ぐらし』ともいえる。

・二階堂の鬼

改めて、第3話「二階堂の鬼」は傑作だと思う……
すごいのは、将志(マサ)の存在だ。転校してきて、仙台の名門サッカークラブから来たエリート少女すずのことが気になる風太をメインの視点でエピソードを構成しようとしたときに、風太の嫉妬対象としてもう1人の男子キャラを配置して三角関係にするのは王道だ。この作品でいえばキャプテンの多田がそれにあたる。そして、そんな多田に難病の運命を与えて、それによって風太の葛藤と、すずとの交流を作り出すプロットなので、実は将志はあんまり要らない。というか、将志ポジションのキャラをそのまま難病で入院させればよりコンパクトになるはずだ。つまり将志=多田にすればよい。

しかし、この漫画ではそうはならずに、あくまで風太の嫉妬対象を将志にして、もっとサッカーが上手くてイケメンな多田には嫉妬しない。そして入院している多田に何度もお見舞いに行く将志と、行こうにも行けない風太とすず、という形で対比の構図を作り、終盤のクリスマスの見舞いには風太とすずの2人で行き、将志はいない(その前の紅葉ヶ谷のシーンには将志も「なぜか」付いてきている。ここの『ちはやふる』小学生編っぽさすごい。元ネタかもしれない)。

こうして、脚を失った多田の苦悩と実存を描きながらも、あくまで彼は「蚊帳の外」として、風太・将志・すずの甘酸っぱくほほえましい三者関係を立ち上がらせている。これがすごい。

見方によっては、風太の淡い恋の青春ストーリーのための都合の良い引き立て役として、別キャラに難病を与えて片足を失わせた、かなり残酷で嫌らしい話にも読めると思うんだけど、その中学生なりのシリアスさとほほえましさとが見事に同居した、かけがえのない傑作短編になっている。

クリスマス見舞いのシーンでの、コマの内にも外にも降り続ける雪の描写に、漫画ってすごいな、と思わせられた。

あと、すず自身は特にどの男子にもあんまり靡かずに孤高なヒロインとして屹立しているのがまた素晴らしい。まぁこれから異性愛に発展していくのかもしれないけど……。



2巻

・花下蛇

すず視点の話だと一気に少女漫画然とするな。学生だし。自分に向けられたクラスメイト男子(風太)の好意には鈍感なのおもろい。
やや児童文学っぽさもある。中1にしては精神年齢が高いが。

佳乃の元彼の高校生の謎を追う、第2話の続きのような話。中学生探偵モノ。
GKのみぽりんの話を読みたいな。

すずも幸も朋章も、目つきが鋭い表情をしているときが印象的だが、その一方ですずはデフォルメ調でコミカルに可愛らしく(中学生らしく)描かれることもあり、その差異がとても魅力的。朋章は高校生らしく描かれることが一切ない悲哀と良い対比になっている。

これもまた、複雑に拗れた家族の話であり、故郷の話である。よその家の大変な事情を知るたびに、四姉妹が仲良く暮らすデカい家の温かみと歴史がますます尊くなってくる、という構造。幸によく似ていたという祖母の存在が、この屋敷の佇まいを歴史的に規定していて重要なのだろうか。


・二人静

うおおおおみぽりん!! 好きな男子が被って友達と気まずくなるやつ!!! 最高!! (てかすずはマジで多田くんが好きなのか?)

これ、すずが姉たちそれぞれの彼氏事情についてひょんなことから興味を持って詮索していく中学生探偵モノなのか? まじで。

千佳19歳なんだ。未成年かー……酒飲んでなかった?
美帆さん最高やな…… こういう子がいっちゃん好きや……
湘南オクトパス最高…… この5人、永遠に仲良くしててくれ。マサのキャラと位置付けもようやく分かってきた。こいつは別にすずに恋愛感情は全くない賑やかしなのね。
マジですずのサッカー話が好き過ぎる。泣いちゃう
みぽりん…… ヘテロ幼馴染モノといっていいよね。。

すずと美帆がふたりで話すロケーションがまたいちいち素晴らしい。海沿いの電車、堤防の上、トンネル近くの線路の上の高架橋…… マジで理想の物語かもしれない。女子中学生が主人公で、特定の田舎町を舞台にした青春群像オムニバス。
毎話、邪魔にならない程度にちょこっと鎌倉ゆかりの歴史教養ネタを入れてくる。

すずが「魔性」の女ではないと美帆に無自覚に見せつけるデフォルメ顔表現に、やっぱりこれ少女漫画だなぁと思わせられる。口を大きく開いて上下の歯を見せて笑うバカボン的な表情。「かわいい」を崩すコミカルさ。



・桜の花の満開の下

マジで風太とすずみたいなヘテロペアがいちばん推せるんだよな。中学生の恋愛サイコー!! もっと見せてくれ

美帆がジョギング中に「おかえり裕也」と声をかけて男子3人が緊張するページ最高。この作品はしばしば、こういう敢えて同じ構図のコマを並べる演出をする。

「ビブス」にわざわざ欄外注が入るのなんなんだ。時代柄? 読者層? 作家性?

風太の裕也への嫉妬と憧れとそれゆえの同情・絶望がないまぜになった感情がかなり美味しい。男子同士のこういう関係がいちばんおいしいんだから(重松清『きみの友だち』で植え付けられた性癖)。

みぽりんお嬢様学校に通ってるのか…… 魅力がとどまることをしらない
てか湘南オクトパスはクラブだからみんな同じ中学生ってわけじゃないのね。
裕也…… 悲劇の天才少年に寄り添って苦難を与えれば与えるほどに味が染み出してくる。

うおおおおお 重い闘病要素と甘酸っぱい中学生ヘテロ青春要素が交互に差し出される!! キュンキュンするぅ〜〜!
裕也ほんと強い奴だな。すごいよ……

なるほど、「かわいそう」と言われた経験をすずと裕也は共有できて、そこに風太は疎外感を覚える。素晴らしい三角関係

すずの髪の毛についた桜の花びらを取ろうとするシーン、漫画がうますぎる。


風太視点の思春期の悩みがいっぱい詰まった最高の話だった。


・真昼の月

風太とマサ、こいつらかわいすぎるだろ。男子中学生なんていちばんかわいいんだから。
そういえば、「女子がたった2人しかいないジュニアユースのサッカーチーム所属」という設定ゆえに、すずの周りの同級生の人間関係は男友達が多く、自然と少女漫画的な構図になっているんだな。
川原泉「甲子園の空に笑え」とかもそうだけど、サッカーとか野球といった男性競技人口が圧倒的に多いスポーツを少女漫画で扱うことにはそうした利点もあるのね。


シャチ姉ってほんとすずとそっくりだな顔
やっぱりガッツリ不倫してるのかー いちばんしっかりものの長女がこうなの変にリアルで良い

お祖母ちゃんの七回忌 久しぶりに三姉妹の実の母に会う まだ母は生きてたんだっけ。父(夫)の葬式にも出てこなかったのに。
「女子寮の一番下っ端」 いい形容だ。
大船の大叔母さん頼りになるな。根掘り葉掘り不躾に訊いてくるのも、いるわ〜〜こういうおばちゃん! でもいざという時にいちばん頼りになるんだよなこういう人が…… という生々しさで良い。

すず…… あなたが負い目を感じることではないんだよ…… それでも罪の意識を感じてしまうほどに、シャチ姉たち3人を大切な「家族」だと思えるようになっんだね。。

www シャチ姉の不倫設定そういうことかぁ〜〜! すずの母のしたことが全て今の自分にも跳ね返ってくる。幸があぁいう性格なのは明らかに子ども時代の両親の離婚と家出によって、自分が親代わりに下の妹たちを支えなければいけない境遇の影響が大きい。ほんとうは母にもっと甘えたかったんだよね。1話でのすずへの台詞はそのままかつての自分への言葉でもあるのだから。

あの家が、母にとっては息が詰まるような場所だったのね……祖母と折り合いがつかなかったから。
「人生」だな…… みんなそれぞれに人生の歴史があって今を生きている。
人生と生活を描いてくれている物語。ありがとう

そうか この人も “娘” だったんだ

見ようとしなければ見えなかった、これまでもずっとそこに存在していた人の一面。歴史。真昼の月。

人はみんな誰かの子ども。母娘関係とシスターフッド。少女漫画というか、明確に「女性漫画」ではある、本質的に。

とすると、やはり次代再生産のための異性愛要素もまた大事だろう。えー…… 三姉妹誰か、結婚したり妊娠したりすんのかなぁ、作中で。シャチ姉の小児科医の男との不倫関係はどうなるのだろう。まだまだ進展がありそう。

うっっっま…… 短編の名手すぎる。
梅酒で始まり梅酒で終わる。しかも、最初の梅の収穫シーンは「子ども」のすずや風太たちから始まって、そこから幸視点になり、最終的に幸が母を誰かの「娘」、子どもであることに気づいて少しだけ和解/理解するプロット。完璧。

母が駅に消える2コマの威力よ。影の付け方が……
電車・線路の描き方、漫画のなかでの登場のさせ方もうますぎてビビる。列車に乗って去る母を高架から見つめる娘……

母が三姉妹のぶんだけ用意したスカーフ、すずはどうするんだろう。そのまま身につけたら疎外感半端ないし。幸なら工夫しそうな気がする。


2巻まとめ

2巻おわり!!
今度は3篇でなく4篇入っていて、主人公(視点人物)は すず→すず→風太→幸 という配分。
初めの朋章の話以外の3つはどれもちゃんと泣いた。めっちゃ好き。
生活と人生を描く、地に足のついた物語が好みである自分にとって、本当に理想的な漫画。
そこに、田舎要素と思春期の恋愛(三角関係?)要素もあるものだから、自分のためにあるような作品すぎて怖いくらい。

オムニバスだけど時系列は一応ストレートに並んでいるのだろうか。
冬から春になりすずが中2になり、梅雨になりそれが明けて夏が近づいているので、たぶんそのままの時系列で進んでいる。

オムニバスと連作短編集と長編の、ちょうど真ん中ぐらいの塩梅のエピソード構成がまたちょうど良い。



3巻

・思い出蛍

父の一周忌のため四姉妹で山形の山里へ
すずと義弟との交流
母と弟と離れて暮らす小3の和樹くん可哀想すぎる

赦すことと赦さないこと、そのどちらも尊重する、というテーマが通底している。

“「嫌い」は「好き」よりずっと早く伝わってしまうのかもしれない”

“あたしたちはとうとう家族にはなれなかった でも和樹も智樹も幸せでいてほしい”

男子三日会わざれば……で、これから和樹たちもどんどん成長して大人になっていって初めて、すずは彼らと仲良くなっていけるのだろう。人の縁
ホロリと泣ける


・誰かと見上げる花火

幸は幸でかなり自分勝手でワガママなんだな。親の血が……とか言っちゃうと絶対怒るやつ

千佳がシャチ姉の「不倫」に気付くコマ、切り取って使いたいくらい好き
すず、マジで裕也にちゃんと惹かれてるのか……美帆との三角関係待ったなし!! 裕也側はどうなんだろう

エエーッ! みぽりん裕也のこと諦めちゃうの!? そ、そんなぁ…… それですずのこと応援するなんていい子すぎるけど三角関係がぁ〜!

「愛の狩人」と「愛の旅人」 草

そ、そうか……裕也お前彼女いたんか…… ここでサッカークラブの身内だけで恋愛関係が完結しないのがリアルでいい。すずと美帆、ふたりまとめて振られちった。そのあと、港の船までふたりでトボトボ歩くシーンが最高。踏切を渡る引き水平ショットのコマとか小さいのによく描くなぁ。

佳乃は銀行の同僚係長男と新たな恋をするのか。酒好き同士。「弁天さん」とかハンドルネームで呼び合ってるのなんなんだ。
え、幸は不倫相手の小児科医男じゃなくて、まさかのサッカーコーチ男(ヤス)に乗り換えるのか?? すげぇいい雰囲気だけど。。

友達と同じ人を好きになっちゃって三角関係になったかと思いきや2人ともフラれるやつ。こういうのも好き(片想い/失恋描写ならなんでも好き並感)

“当分裕也に会うたび心のどこかが騒ぐんだろう 線香花火の最後のジジジみたいに”

鎌倉七酔人ww 佳乃そんなコラムやってるんだ、なるほどね。
いざという時(風呂場にカマドウマが出た時)シャチ姉に頼る佳乃かわいい

今回は幸、佳乃、すずの3人をかわるがわる視点人物にした群像劇だったな。四姉妹で今のところ千佳だけ主人公感が薄く、いい意味でサブキャラ感がある。いつもそこにいてくれるマイペースな人、という点で。


・陽のあたる坂道

すず視点
風太だけは裕也のプレーの良いところをちゃんと見抜いていた。やるやん風太!さすがキャプテン!!
すずに褒められて、チャリで遠ざかりながらニヤニヤする風太にこちらもニヤついてしまう。

女子サッカー強豪校として藤枝と富士の高校の名前が出てきた。
幸姉は両思いの不倫相手とのことを悩んでいるご様子。男性用の長い箸を、妹に見られないところで買おうとする。

夏の陽のあたる坂道を姉とふたりで歩く。短いながら風格がすごい……


・止まった時計

幸視点
調子に乗った佳乃が買ったイチキュッパのスーツの値札タグが後ろからのコマで初めて見えるの、つくづく漫画のコメディが上手いな〜となる。前話のニヤつく風太もそうだけど、台詞を使わずに絵だけでこっそり読者に向けて笑わせる。

いまだ一度も姿を見せない「ダメナース」のアライさんの意外な良い一面を発見する幸。
襲ってきたトンビを仁王立ちで睨む幸の顔すき


やっぱ別れるかぁ〜〜 そりゃあすずを置いてけないもんねぇ、自分から引き取ると言い出しておいて。
今度はヤス監督といい感じになるのかな

すずたち中学生の青春恋愛模様と、幸たち大人の不倫恋愛模様とのギャップがたまらない。幸本人にとってもそうだろう。それでも、明るくなったすずが青春を謳歌している姿を見て励まされるように、両者には確かにギャップだけじゃない、通じ合うものがある。どちらも人間がすること、ヒューマンドラマなのだから。

おお〜…… 浜辺の無人の横断歩道、「お元気で」。風格がすごい……(定期)


3巻まとめ

3巻おわり。
四姉妹の話というより、実質、すずと幸のW主人公モノという感じの巻だった。
すずは風太や裕也との青春恋愛模様を順調に進め、かたやシャチ姉は不倫相手と色々あって別れることに。

大人の恋愛模様を子どもが期せずして目撃して、色んな影響を与えることもある。なにせ鎌倉の町の一画という狭い範囲で繰り広げられている物語なのだから。

外で恋人と会って、いつ知り合いに会ったり見られたりするか分からないよなぁ。妹の男友達の酒店に、彼や妹が教わるサッカー監督と一緒に行くのとか、自分なら嫌だけどなぁ。誰に出会して噂を回されるか、たまったもんじゃない。


4巻

・帰れない ふたり

ゲロ甘じゃねぇか!! 風太とすず、ものすごくいい感じ。あ〜〜〜キュンキュンする〜〜〜〜!!

“おれは浅野がこの世に生まれてくれてよかったって思ってるから”

裕也に失恋したすずは、好きな人を諦めなければならない幸姉の気持ちが少し分かるようになり、しかし自分が両親の不倫でできた子である来歴から、自らの存在に関わる根源的な葛藤を抱えている。
それを、なにもそうした経験や悩みのない単なる同級生の風太には自然と打ち明けられて、彼に「生まれてくれてよかったって思ってる」と存在を肯定される…… こんなの、もっとも真摯でもっとも重い、愛の告白だ。それは親や家族から送られる愛とは違う、人生の途中で出会って仲を深めた他人に言われる言葉だからこそである。
風太……
(ここからすずが別の男子と付き合ったら風太にとって極上のNTR/BSSになるな……)
てか、マサとみぽりんもくっ付くのだろうか……


・ヒマラヤの鶴

あああああ!!!! 悶える!! 中学生の初々しい恋、最高!!!
マサのキャラデザの既視感がわかった、『パスワード』シリーズの挿絵だ。梶山直美先生。マサは小海マコトに似ているときがある。


闘病関連で定期的に心配をかける裕也は、すず達の物語を進ませるための実に便利な装置にもなっているな。
風太がいい奴すぎる。本人に聞かれてるとは知らないところで、あんだけまっすぐに友達想いの言葉を言ってくれるのを目の当たりにしたら、そりゃあ”復活”するよ。

千佳の彼氏のアフロおじさん、めちゃくちゃ頼れるいい大人だ……彼がヒマラヤ登山で一命を取り留めたときの体験談が、うまく裕也と風太の今のエピソードに重なる。
三姉妹でじつはいちばん恋人を見る目がある千佳姉。


・聖夜に星降る

裕也、退院後も義足のサッカー少年として雑誌に取材されてるのか…… 大変だ。格好のネタではあるけど。
梅を丁寧に取ってくれていた風太の姿を覚えていた幸姉。そういう過去エピの持ってきかたもするのね。
あぁ……胸が苦しい…… こいつらお似合いのいいカップルだ…… 来年は中3、進路のこともある…… 幸せになってくれ…… 別の高校になるのか、サッカー辞めて一緒の高校に行くのか。すずも鎌倉を離れなさそうだからなぁ。

マサと違って、裕也がマジで正論しか言ってなくて笑う。あときょうだい関係の繋がりが多すぎ。噂のネットワークがすごい。
幸と佳乃もそれぞれ新しい彼氏候補と着実に仲を深めている。


・おいしい ごはん

思い出の味をテーマに、姉妹それぞれの恋模様の進展を描く。滋味深い、綺麗な短編だ……
幸と佳乃、クリスマスデートで酒屋で鉢合わせたのを、互いに「誤解」しては内心で毒付いてるのほんと似たモノ同士でおもろい。
佳乃が姉の名前を「不幸」の「幸」と説明するの草
ちくわカレー食べてみたいな
回想コマでの小さい頃の三姉妹かわいい

ヤスって幸より歳下なの!? ぜんぜんそうは見えないんだけど。
ヤスが高1のとき縁日の出店の手伝いをした時に食べさせてもらった、友達のばあちゃんの特製焼きそば。奇跡の味。こういうおばあちゃんエピソードに弱いのです。
幸姉はまだそんなにヤスに惹かれてはないようだが、時間の問題だな。別れたばかりの傷心の時期だしな……

海猫食堂とカフェー山猫亭。ややこしい。
海猫食堂のおばちゃんの母って、幸がアロマテラピーした翌日に亡くなった福田さん? でも「二ノ宮さん」言うてるし違うかな。
山猫亭の主人のおじさんが福田仙一さんだから、その妻だったのかな。

今度江ノ島行ったときにしらすトースト食べてみるか〜
すずは両親が鎌倉にいた頃によく通っていたであろう店(山猫亭)を見つける。風太に隣にいてもらいながら、段々と両親との思い出も追い目なく話せるように整理がついてきたすず。


4巻まとめ

4巻おわり!!
表紙の通り、すずと風太の関係がグンと進展した、この2人メインの巻だった。

マジで千佳だけ彼氏とも円満盤石だしほぼ視点人物にならないので主人公感が薄いんだよな。あのおっちゃんと結婚するとかなればメイン回くるかな。
すずは高校進路の悩みエピがいくらでも描けるだろうし、幸もヤスとの関係をじっくりと迷いながら進めていきそう。佳乃は上司の男との恋愛わりかし順調にいきそう。海猫食堂のおばちゃんの手術とか少し不穏だし、鎌倉の町の人々の話も本格的に入ってきそうだな。



5巻

・彼岸会の客

すずの母の妹(=叔母)が今さら鎌倉まで会いに来てお金を渡したい、と連絡があった。
ふだん呑んだくれてるぶん、佳乃がキリッと真面目にすずの保護者としての振る舞いをしてる凛々しい姿にはグッときちゃうな。話しながら手に「念のため」の缶ジュース持ってるのは笑えるけど。二日酔い対策

幸が30、佳乃が23、千佳が19だったっけ。すずが14だから、実は千佳とすずはそんなに離れてなくて、幸がかなり妹たちと離れてるんだな。
4人が並んだコマがある。すずと幸ってもう背丈一緒なんだな。ますます見分けがつきにくい。千佳だけ一回り高い。

陳謝している人に対して「どうか手をあげてください」? 「頭をあげてください」の間違いでは。
北川のおばさん35かー若いなぁ いい人そうで良かった

「すずというたからもの」
許さないこと、許されないことで通す親子の筋。
赦すことも赦さないこともあるように、途切れる縁も、また新たにできて長く続く縁もある。


・秘密

海猫食堂のおばちゃんやっぱりそうか…… うぅ……重い……辛い…… でも町の人々の人生を描くということは、大切な人の死までの道のりに付き添って看取るとこまでちゃんと描く必要があるんだよな。

そして裕也も…… 残念だけど仕方ないね。もう次の新たな道を歩き始めてるのほんと凄いよ。彼もまた、すずのように、同年代の他の子よりもキツい経験をして早く大人にならざるを得なかったということ。

“この際だからハッキリ聞くけど おれらといると…キツいか?”
“この際だからハッキリ言うけど それはない!”

マジで良い。
そしてすずと風太は、それぞれに話したくても話せない「秘密」を抱えながら逢う……満開の桜の下で……


・群青

うあ〜…… 泣ける……
まさか3週間であっさり逝くとは。長く描かれるより気が楽だけど。
山猫亭の福田さんとデキてたのかどうかは闇の中
いつもはおバカなとこしか見せない賑やかし要員のマサをこう使うのはずるいよ……泣くって。

幸も佳乃もマジでかっこいい。医療と金融、健康とお金。どちらも人の生活と人生に向き合う仕事であり、この職業設定のチョイスは必然的だと感じる。
上の姉ふたりがこうなってくると、千佳のおちゃらけマイペースさがまた沁みてくる。と同時に、千佳だけがあんまり「物語」の主役にはならないワケもよーく分かる。

裕也は辞めずに残ってくれてマジで良かった。風太がどんどん成長して尊敬できるやつになっていく。まぶしいよ……風太……
裕也と風太の男同士の関係がすごく良くて、なるほどだからこそ賑やかし要員としてマサが要るんだな、と納得した。(その上で、先述の通りマサ自体の奥行きも同じ話で見せてくるんだから構成が完璧)

マジで「人生」についての漫画だな


・好きだから

いやサブタイトルはブラフかーい! てっきり風太がいよいよ告るのかと……
幸の乳がん発覚からの良性診断までを1話で爆速でやる。前話のおばちゃんの件といい、かなり巻いてる?


5巻まとめ

この巻は、すずよりも幸が主人公だったな。緩和ケア病棟の主任に異動して、あらためて自身の仕事と向き合う。
医療者は「他人事」だからこそ役にたつ。よくいう話ではある。

てか、食べ物がいつも本当においしそうなんだよな。その土地の自然と文化と歴史と食を通じて人々の人生を丹念に描く。こういうところも国シリーズに似ている。



6巻


・いちがいもんの花

遺産相続の手続きやらのために、四姉妹ですずの母の故郷である金沢へ
十和子叔母さん本当にいい人だなぁ いい人とクソな人の振り分けが激しい
千佳は人たらしだ…… すずの従兄・直人くん(大学生)は今後も登場するのかな
「それは言わぬが花」 誰うま
大阪弁やら山形やら金沢やら、各地の方言をそれぞれに使い分けててすごい


・逃げ水

幸と佳乃、上の姉ふたりが初めて2人きりで呑み交わす。それぞれの仕事のこと、気になる人のこと、「こんなはずじゃなかった」という難儀な気持ちを、それでも「ま、いっか」と思えるようになるまでの人生の旅路をともにする者として。
佳乃の、新たな恋を決意した狩猟者の眼光が凄まじい。

風太がここぞという時にしっかりと、他の人にはできない立派な働きをするのホントすごい。あと、お馬鹿キャラの将志が、大切なおばちゃんの死を悼んでいる姿がまた胸に来る……
すずが夜うちに来た風太に面食らって恥ずかしがるの最高 キュンキュンする


・地図にない場所

金沢の美大3年の、すずのいとこ直人が鎌倉へ。地図にない谷(やつ)で、運命の女性に出会う。
かなりヘテロ主義だよなぁ。運命の男女カップル、を結構ホイホイ作る。
風太〜頑張れ〜〜 でも、このお互い好意を伝えられずにモジモジしているこの段階がいちばん見てて良いとも思う。。


・肩越しの雨音

すずの高校進路について 静岡の女子サッカー部新設校から誘いが来て悩む。
うおおおお風太〜〜! もう付き合うまで秒読みですね まぁ推薦蹴るだろうなぁ 風太のこともあるけど、何よりあの家で姉たちと暮らす生活を手放すとは思えない。この漫画の大枠のメタな理由もあるけど。


・四月になれば彼女は

佳乃さんの銀行の上司男めっちゃカッコいいなぁ……
自分の進路をじっくり思い悩める環境がある、という幸福。だからこその苦悩。
うおおお サッカークラブの中3のこいつらの日常を見ているだけで泣けてくる。一生仲良しでいてくれ……離れ離れになっても……



7巻

・同じ月を見ている

うおおおおお!!! 風太!!!! 告白を延々と先延ばしにして、もうお互いに好意には気付き合っている中学生男女のいちばんおいしい関係でのエピソードを量産している
そうか…… すず、鎌倉を出ていくのか…… ってことは、すずの中学卒業までで終わるのかな。それまでに姉たちの恋愛?にもそれぞれ一区切りをつけて。
風太カッコ良すぎる。カッコ悪いところまで引っくるめてかっこいい。がんばれ。幸せになれ


・パンと女子と海日和

ついに幸とコーチが付き合い始めた! ふたりの会話の雰囲気がいい。男が年下なんだよな
千佳が語り手としてしっかり葛藤するさまが描かれるのって初? 元登山家のおっちゃん親友の葬式で2週間ネパール行ったきり帰ってこないのかな


・あの日の青空

今度は佳乃が坂下課長を仕留めた。山猫亭のおっちゃんナイスアシスト。
しかし相変わらず話が重い! 人が死に過ぎている。課長のは想定内だったけど、おっちゃんお前もか。じぶんはこういうの好み(語り方・雰囲気が好み)だけど、こういうのを薄っぺらい、しょーもないと一蹴する人がいるのも理解できる。人の死を「感動」のために安易に使い過ぎていないかと。しかも、カップルをくっつけるための体のいいきっかけとして。

佳乃が坂下課長に行ったように、「死」はつねに日々の生活の傍にある。死と連れ添って人は生きていく。浜辺のロケーションが良過ぎて、話というより風景で泣いてる気がする。

すず達の修学旅行はあっさり終わった。鎌倉の人にとって、古都・京都の街並みはさほど珍しく思えないんじゃないか。そうでもないのか。奈良の大仏も。
さすがに将志をおバカキャラにし過ぎているんじゃ……と気の毒になってきた。


・遠い雷鳴

影の表現がとても好きだ。室内でも野外でも、風景でも人の顔でも。スクリーントーンの使い方のセンス

いきなり不穏になってなんだなんだと思ったら、そういうことか。千佳…… 店長には妊娠を話してないのか。幸の乳がん疑惑とかもあったけど、ここに来てあまり目立ってなかった千佳メインで物語をやるんだな〜なるほど。
大船のおばさんの「大人は子供を守るものなのよ」というお話がとても王道に倫理的でしみじみ良い。
これまですずが最年少にして唯一の「子供」だったけど、さらに幼い子供が家族に加わる可能性……



8巻

・乙女の祈り

そういうことかぁ〜〜 これ、店長がヒマラヤで死んじゃったら千佳がシングルとして子どもを育てていかなきゃならなくなるぞ。まさかそのパターンではないよな? やめてくれ〜


・恋と巡礼

うわぁーーー神回だ〜〜〜 ボロ泣きですよこれは
幸と佳乃、上の姉ふたりの関係がほんとうに好き。やっぱりこの2人ってめちゃくちゃ似てるんだよな。彼氏と破局するタイミングも、新しい彼氏ができるタイミングもだいたい同じだったし。いざという時のふたりのツーカーのコンビネーションが本当に頼りになる。

幸(と佳乃)が千佳を叱るときに、「すずに重荷を背負わせて傷つけた」ことを決め手として使ったのがすごい。この作品が四姉妹モノである意味がここでようやく分かった気がした。

浜田店長を心配して妊娠を伝えないことが、彼の登山家としての誇りを傷つけることにもなること。至極真っ当な意見。何より、千佳を愛している、千佳の恋人としての彼を信じてあげられていない、ということでもある。まぁ実際、妊娠したら平静でいられないだろうからあんまり責められはしないが。そこまで含めて実に生々しく良くできた話だと思う。

すずと千佳の関係もいい。歳が近い千佳がいたおかげですずは鎌倉での「女子寮」生活にすぐ慣れることができた。これまであまりメインの視点人物にならなかった千佳は、「死」と同様に、あまり焦点は当たらないかもしれないが、日常的につねにそこに居続ける、居なくてはならない存在なのだろう。この漫画の基盤には千佳の存在がいるのかもしれない。

千佳、店長と結婚してあの家を出ていっちゃうのかなぁ。そういうのも含めてお姉ちゃん達は「特上」の寿司3つを頼んだんだろうなぁ……と思うとほんと泣ける。


・姉との旅

すずが進学を決めた掛川の高校へ幸と入学説明会に行く。
鎌倉から掛川かぁ 新幹線から天竜浜名湖線に乗り換えて2時間半くらい? 「茶畑駅」のモデルどこなんだろう


一面に広がる茶畑を「海みたい」とすずが言ってくれて嬉しいよ…… 女子サッカー部の友達も出来そうで、高校生編も読みたいな〜と思った。ないのかな

幸が何度も、つらかったらいつでも帰ってきなさい、とすずに声を掛けるのが……泣
それを聴いたすずが「きっと大丈夫」と言って、姉を追い越して走り出すのがまた……泣

一方、妊娠中の千佳が佳乃に付き添ってもらって神社巡りの続きをやるのも「姉との旅」だ。おちゃらけコンビのふたりも、それぞれに随分と変わったなぁと感慨深くなる。

千佳もすずも居なくなったら幸と佳乃だけになっちゃう!? どうなるんや……あの家を取り壊して終幕パターン? それはテーマ的にもすずの帰る居場所を残しておくためにもないか。
オチの付け方おもろい 取っといたかまぼこ板を有効活用できて自慢げな幸姉かわいい


・満月と言霊

そういや三姉妹のお母さんってまだ生きてたな。すっかり忘れてた
娘が結婚妊娠したと聞いてテキトーなお祝い品だけ送りつける母。そういう人もいる。この漫画は基本的にすず達に「縁」があった人たちの群像劇なので、母はほぼ出番がないのだろう。まさしく人生だ。

三姉妹の末っ子である千佳は、そんな母にも良い幻想を抱いており、だからこそ、娘である自分が愛されていないのではないか、という不安が襲いかかる。それを新しく出来た妹・すずの手弁当が救う。

すずと風太がチャリで巡る海沿いの街道の風景が素晴らしい。ふたりの、互いに少しずつ好意を隠さずに伝えようとしている雰囲気がたまらない。

いっぽう幸姉は彼氏・井上と、月夜のせいにして初夜を迎える。こういうときにも幸は佳乃に「今夜は帰れない」メールをサラッと送るんだな。マジでいい関係

めちゃくちゃ異性愛主義・出生主義な物語である一方で、今回のように、「家族の絆」を素朴に礼賛せずに、それに縛られて苦しむ人々もいることをも描く。
ヘテロカップルとなる「恋人」って、はじめはその人の家族でもなんでもない訳で、しかし結婚して「家族」になって子供を作ると、そうして疎んでいたはずの家族主義に自らが取り込まれていく。バランスというか、良くも悪くもというか、「縁」というか……とにかくそういう佇まいのある作品だ。



9巻

・女子の言い分 男子の事情

ここで成り行きであっさり言いやがった!! 将志のおかげみたいなとこあるのがモヤるな…… でもおめでと〜 すずの返事が最高すぎる

四姉妹みんな恋愛が順調そうでよろしいことで。姉が温泉行ってるからってすぐに影響される妹たち。


・幸福

幸や佳乃の恋の物語をいちおう良さげに畳もうとしている。元彼との不倫を思い出している幸姉はちょっと自己陶酔的でアレなので、今彼が合っていると思います。

福田のおっちゃん…… 大切な人がいなくなって初めて、これまで自分がいかに幸せだったのか実感する。
金沢のいとこ・直人も恋人に会いに鎌倉へ訪れている。


・夜半の梅

直ちゃんのモデルを引き受けたドレス姿のすずかわいすぎ。
ヒマラヤ登山中の浜田店長と連絡がつかなくなり、千佳を心配したみんなが集って香田家が情報を集める前線基地のようになる。
大変なときなのに、だからこそ余裕がないすずを見て「かわいい」と思う風太。こういうところお見事
福田のおっちゃんがカッコ良すぎる。テンパっているときこそ普段見せない優しさを見せるひと。


・行ってきます

おわり!!! 乙!!!!!

9巻まとめ

最後のほうは大団円に向けて時制を飛ばしながら群像劇の各方面の物語をあたたかく締めくくっていた。

総評

縁を繋いで、自分にとっての帰る場所、〈家〉を見つけた上で自由に世界へ旅立っていく者たちの物語だった。鎌倉という土地そのものが主役といってもいい。

こうしたテーマ上の必然か、ひじょーに保守的なハナシではあった。ヘテロ主義、ロマンティックラブイデオロギー、出生主義、家族主義…… そういうところがなんだかなぁと思わなくはない。めちゃくちゃ思う。でも、人生を描こうとするトーンと雰囲気、風景を大切に描くタッチがものすごく好みであったのは変わらない。

鎌倉行きたいな。『アオナツライン』(鎌倉が舞台のエロゲ)やりたいな
「緑の指」をもつ風太は、自然の命を大切にすることができるひと。人を見る目があるのも同根だろう。

将志とみぽりんって地味にデキかけてるのだろうか。すずと風太が付き合ってるから、将志が余計なことをしないように美帆が将志を仕方なく引き受けてるだけ?


・通り雨のあとに

数年後……10年後くらい?の後日談
1話で分たれた人生を、置いていかれた側から振り返る。連れ子同士で突然できた姉なんて、初恋するわな
『詩歌川百景』はこの山形の人々の話なのか
すずは風太と結婚するらしい。顔だけ映されないの不気味っちゃあ不気味だ。姉さん方はもう結婚したのかしてないのか……

すずの父の元妻だったひとが相変わらずヤバすぎる。また作った子どもを大叔父夫婦に預けて行方不明になったとか。幸たちの母といい、この作品世界には一定数そういう人もいるよね、という設定らしい。でもそういう人は物語にはほとんど登場しない(縁がない)ので目立ちはしない。たまーに言及されてギョッとなるだけ。




映画版の感想

『海街diary』(2015)

2024/11/16(土)夜 Primeレンタル

きょう原作漫画を読み終えたので、あわせて鑑賞

いやぁ~ 漫画原作の実写化邦画としては、かなり良かったのではないでしょうか。ふつうに感動して泣いていた。といっても、漫画が素晴らし過ぎるのが第一で、その補正で、映画では描かれていない背景まで脳内で補完して感涙していた。

ただ、原作を読んでないひとがいきなりこの映画を観て面白いと思えるのかは謎。説明が省略されすぎているし、物語の筋は弱いし、かなり楽しむのはむずくない? 雰囲気を楽しむくらいしか出来なさそう。この作品はそれで何も間違っていないが。

現代ドラマとはいえ、原作は全9巻、3年弱のスパンで鎌倉のいろんな人々の人生を描く群像劇なので、それを2時間の映画にするのは結構難しかったろう。どこを切って、どこを使って、どういうオリジナル要素を加えるのか、どう再構成するのか。そうした「映画化」に、かなり成功していたのでは、と思う。


時系列としては、海猫食堂の二ノ宮のおばさんが亡くなる前半部までを描いていたが、サッカークラブの義足手術をした多田裕也くんの存在はバッサリ削除されていたり、幸や佳乃の物語開始時点での彼氏との別れをめちゃくちゃ省略して描いたりと、大胆にカットしていた。

一方で、すずと風太が桜のトンネルをチャリで駆け抜ける場面や、花火大会を船から見る場面など、映像映えするところはじっくり美しく撮り、さらに四姉妹で浜辺を歩く場面や、家の庭で線香花火をする場面などの映画オリジナルシーンを加えていた。夜に幸の部屋で、幸と佳乃が話すシーンとかも原作に無かったよね? あそこ良かったです~

また、原作1話の山形ですずと初対面する日に、すずが「街」を見下ろす高台で涙するシーンが削られたと思っていたら、終盤で鎌倉の高台でそれを回収するなど、そうやって再構成するのね、と感心することがあった。


俳優のキャスティングや演技も全体的に悪くなかった。いちばん解釈一致していたのは三女の千佳(夏帆)。原作準拠のアフロヘア―ではなかったけど、イメージしてた千佳そのものでびっくりした。

すず(広瀬すず)を筆頭に、姉妹のほか3人もかなり良かった。風太くんが可愛すぎてたまらなかった。男子中学生~~!! みぽりんも背ぇ高くてよかった。大船のおばさん(樹木希林)のお喋り具合と法事での扇子さばきには笑った。お母さん役も絶妙だった。福田のおっちゃん(リリー・フランキー)の訛った口調も良かった。二ノ宮さん(大竹しのぶ)は最初っから死ぬオーラ凄くて笑っちゃった。


この実写映画を観たいと思ったいちばんの動機は、原作で実に印象的に描かれている鎌倉の風景・ロケーションを実際に観てみたい、というところだったのだけれど、佳乃と課長が座り込む浜辺の石橋とか、線路の上を走る趣のある橋とか、幸と不倫彼氏が別れ話をする浜辺の階段とか、幸が母を見送る極楽寺駅舎とか、マジでぜんぶ実際にあるんだ~~~と感動した。


原作漫画にあって、映像化が十分に出来ていなかった要素は、少女漫画的な気の抜けたコメディ・ギャグ調くらいだったかと思う。デフォルメの効いた変顔とか、姉妹でほぼ同じ行動を繰り返すコント的構成とか、四姉妹の団らんのワチャワチャ感とか、そういうのは漫画じゃないとキツイよな、と思う。(ワチャワチャ感は再現をかなり頑張っていた)

原作は、基本がコメディで、そこに家族のしがらみやら不倫やら失恋やら身近な人の死やらといったシリアスなことが入ってくる。しかしこの映画では、美しい映像が基調となって、終始、耽美というか上品というか、落ち着いたいい雰囲気が漂っている。そこに、姉妹の仲の良さを示すイチャつき交流シーンやらを入れても、それは邦画的なわざとらしさが拭えない。それよりは、葬式・法事やら別れ話やらといった神妙な場面を神妙そうな顔と演技でやっていてくれたほうが、自然に映る。

でも、風呂場のカマドウマの場面は完全再現で良かったです。幸と佳乃の関係が最高だと再確認した。あと梅酒漬けがめちゃ美味しそうで良かった。梅に「す」とか「ち」とか名前の頭文字をつついて彫るのもオリジナル要素でとても良かった。


あと、今回は原作ありきで見たので、それとの比較に追われていたが、もしも仮に原作未読の状態でこれを一本の「映画」として観たら……と想像すると、〈父〉の不在──的なところに着目して、なんかそれっぽいフェミニズム批評もどきをいつも通りに展開していた気がする。

そういえば、現在も連載中の続編(?)『詩歌川百景』がこれから映画化されるときには、10年後の成長したすず役として広瀬すずが再起用されたら激アツだな~とか思った。まだ読んでないのでよく知らないけど。

……ってあれ? 今気付いたんだけど、これ2015年公開ってことは、まだ原作が連載中の頃に撮った作品なのか!!! そうか、なるほど~~~
それは完結済みで撮るよりももっと凄いかもしれない。いやそうでもないかな。




おわり

じぶんにとって "理想" の漫画でした。
じぶんが物語に求める好みの要素がぜんぶ入っていて怖いくらい。すなわち

・生活と人生が描かれている
・地に足がついている
・実在する田舎町が舞台
・女性(少女)主人公
・群像劇
・コメディ(コミカルさ)
・思春期のヘテロ恋愛、三角関係
・不倫
・「人生」への視座を含んだ「青春」譚

などなど……です。

また一つ、私のオールタイムベスト漫画が増えました。たぶん好みだろうなぁとは思っていたものの、まさかここまでとは。

終盤は、さすがにヘテロ恋愛至上主義すぎる節に辟易しもしましたが……

これはクソ雑な比較論なんですが、本作のそういう(ヘテロ偏重な)面をアップデートした、2020年代版の『海街diary』が、ヤマシタトモコ『違国日記』なのかもしれないなぁ……と、ふと思いました。

どちらも、未婚の女性が天涯孤独となった親戚の少女を引き取って、共に暮らす話だし……
(両作のもっとも大きく異なる点は、『海街diary』が鎌倉という実在の "街" を舞台にしていることに重心を置く漫画であるのに対して、『違国日記』はより抽象的でニュートラルな町を舞台にしていることだと考えます。)


これからも、吉田秋生や、ヤマシタトモコや、少女漫画を、読むぞ~~!




1話試し読み




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