カラオケ行こ!の話
原作未読の状態で映画「カラオケ行こ!」を見てきたのでつらつらと感想を書こうかなと思います。めちゃくちゃよかった……
【見る前から知っていた事前知識】
・綾野剛さんの足が長すぎる
・変声期の男の子が歌う「紅」がとても良い
・汚いLemonが聞ける
原作は読んでないのでタイムラインで見聞きしたのはこの程度。フォロワーにも何人か見に行ってる人がいて、気になってたので映画館に突撃しました。上映開始時刻過ぎてたのにチケット用意してくださった受付のスタッフさん、本当にありがとうございました……
【⚠︎以降ネタバレ含む感想】
《人物編》
◯成田狂児(綾野剛さん)
罪すぎた。存在が罪。股下5mで黒シャツ黒スーツ黒ネクタイのおちゃめでチャーミングなヤクザがそこにいた。元ヒモのヤクザという人物設定を完璧に表した冷酷さと人懐っこさのバランス、オール裏声の紅をノリノリで歌い上げる姿、挙動や言動から滲み出る可愛らしさや優しさ、垣間見える裏世界の人間としての翳り、全部が全部とんでもなかった。私は俳優さんに疎すぎて綾野剛さんですら「顔と名前が一致する」程度の認識だったんですが、人生初の綾野剛さんをこの映画で浴びられて大満足でした。あんなん見せられたら誰だって沼落ちするわ。ダブルピースが原作にも脚本にも存在しないアドリブだと知って天を仰いだ。
◯岡聡実(斎藤潤くん)
と、等身大〜!!!愛おしさ、ぎこちなさ、真っ直ぐさ、全てを兼ね備えた中学三年生男子……狂児に少しずつ心を開いていく過程も部活の中での立ち位置も家族との関わり方も、ひとつひとつに今を生きる生身の男の子が感じられて本当によかった。ヤクザは怖いけど狂児は(あんまり)怖くないのマジで愛おしすぎる。私自身まだ高校生だから俗に言う「大人」とそれなりに近い距離感で関わる背徳感とかくすぐったさに心地良さを感じてしまうのも心底共感できたし、ましてやその相手がカタギじゃない上に一緒に行くのはカラオケなんだからそりゃ仲良くもなるわな……の気持ちになってしまった。合唱部の雰囲気とか会話のもどかしさ、変声期に対する葛藤とかはすごく見てて苦しくなる生々しさがあって、狂児とカラオケで過ごす時間はそういった色んな物事を忘れられる非日常だったんじゃないかな〜とも感じました。「カラオケ」という場所自体の持つ非日常感がヤクザ要素をプラスしたことでとんでもねえことになってて大変よかった。あと初対面のヤクザが熱唱する横で炒飯食い始めたりコメント求められて「カスです」って言い放ったり、大人しそうに見えて結構生意気なところあるのも好き。斎藤潤くん演じてくれてありがとうすぎる。最高だよ……
◯学校の皆さま
細部までリアルでしんどかったし良かった。面倒見のいい副部長の女子、イマイチやる気のない的外れな顧問、熱意が空回る後輩くん、ひっそり存在する謎の部活と理解者的存在の同級生くん……映画を観る部、見終えたあとに映画版のオリジナル要素だったことを知ってビックリした。何度か狂児と会うきっかけになったり映画を通じて心情描写の役割を担ったり、部活にいづらい聡実くんの隠れ家的な居場所になったり終始大活躍でした。栗山くん(?)もいい味出してた……彼の存在は狂児とはまた違った意味合いで聡実くんに必要だったなと思います。サンタ信じてたのかな。
合唱部の後輩、和田くんは正直見ててかなり辛い部分があった。こういう子いるよな〜って気持ちもあったけど和田くん本人の気持ちも分かってしまって……強豪校だったはずの部活が落ちぶれて、周りの部員もやる気なくて、憧れだったはずの部長まで部活来なくなって……気持ちが先走る部分が多くて映画の中であまり良い印象は持てなかったけど、彼も本当によく頑張ったなと思います。あと子守係の副部長ちゃんも。最終的に皆で写真撮ってるのよかった……「岡聡実が合唱部で過ごした3年間」に対する分かりやすいハッピーエンドをありがとう……の気持ちです。
◯ヤクザの皆さま
ヤクザ!!!って感じの人たち。怒声の怖さと絵面の強さは一級品だけど、映画全体を通してややコミカルなキャラクターとして扱われてるのが親しみやすくて良かった。キティの兄貴とかカスの兄貴とかそれぞれ人物が濃くて覚えやすい。でも怖いところはガッツリ怖くてそこの塩梅が絶妙だった……あと歌の下手さが十人十色で最高でした。きったねえLemon聞けて満足。個人的に一番好きだった聡実くんの一言アドバイスは「ビブラートの癖が強すぎます」で、聞いた瞬間だよね!!!と聡実くんに握手求めそうになった。
《内容編》
(※時系列わりと適当)
◯映画冒頭の濡れた白シャツから透けるゴリゴリの刺青、狂児がヤクザであることをこれでもかと主張してて良い……その後の本編でずっと黒シャツ着てることを考えると、観客に「狂児=ヤクザ」であるということを分かりやすく認識させるための演出だったのかなと思いました。それか聡実くんの前では怖がらせないように白シャツ着てないとかでもいいんですけど……(妄想)
◯稲妻が鳴り響く薄暗い階段での不穏な出会い、からの気の抜けるBGMが秀逸。その後のカラオケのくだりは完全にコメディ寄りで、導入部との差でニコニコしながら楽しめた。この時点で既に狂児のことをかなり好きになってたので恐ろしい。
◯傘のくだりとか鮭の皮のくだりとか、両親と聡実くんの微妙な距離感もいい。基本的に仲は悪くない家族なんだろうな……親に買い与えられた傘を素直に使うことしか出来ない聡実くんの無力さが愛おしかった。中学生だねえ〜!!
◯得体の知れないヤクザの狂児に少しずつ懐いていく聡実くんが本当に可愛い。夜道を心配する優しい言葉をかけてくれたかと思えばダッシュボードから誰かの小指出てくるし、仲間のヤクザは普通に死ぬほど怖い人ばっかりだし、信用したい気持ちと恐怖の間で揺れ動きながらも距離が縮まっていくのが最高で……気がつけば呼び捨てになり、LINEも即既読・即返信、ヤクザに囲まれた後でもなお「カラオケ行こ」と言えるぐらい狂児を信頼している聡実くん……ヤクザではあるけど狂児は多分根っからの悪人ではないので、そこをきちんと感じ取った上で一緒に過ごしてたのかなと思う。いやなんだそれエモすぎるだろ……泣泣
◯狂児の声質に合いそうな曲をわざわざ探してくる聡実くんも、その説明をする聡実くんにニコニコで距離詰める狂児もマジで可愛かった。ダチじゃん……
◯南銀座で宇宙人に絡まれた聡実くんを助けてくれる狂児、流石にヒーローすぎた。もうこんなとこ来ちゃダメって言うのも、自身が身を置く場所の脆さと暗さを自覚してる人間の物言いで……聡実くんのこと初対面で拉致りはしたけど、そういった裏側の出来事には巻き込みたくないという狂児の優しさと意志を感じた。初対面で拉致りはしたけど。その後いちゃいちゃふざけ合ってるのも刺青とまんじゅうこわいのくだりも仲良しで可愛かった。ダチじゃん……(2回目)
◯「俺は地獄に行く」とか「聡い果実やから大丈夫や」とか、自分と聡実くんは違う、って明確に線を引いてるところが狂児の優しさでもあり怖さでもあるなと思った。あと個人的に「必ず地獄に堕ちる男」が大好きなのでその台詞でめちゃくちゃテンション上がった。最悪のオタクでごめん。
◯お守りを渡そうと思えるくらい狂児と関わって絆されていた聡実くんが、狂児に対して明確に怒りを発露するのが合唱部、ひいては色恋沙汰もどきがきっかけなの良かった。聡実くんが狂児の生きる世界のことを知らないように、狂児も聡実くんが3年かけて築いてきた合唱部での日々のことは何も知らないので……それも踏まえて、聡実くんの気持ちをしっかり汲んだ上できちんと「ごめんな」とLINEを送ってくれる狂児に惚れそうになった。普段は付き合いたての彼女みてえな絵文字だらけのLINE送るくせに……うう……ちなみに私はこのシーンで既に泣いている。投げ付けられたお守りを拾う狂児……
◯救急車と音叉の演出凄かった。というか音叉も映画オリジナル要素なんですか……あまりにもいい仕事しすぎでは……??狂児の「綺麗なものだけじゃなくてもいい」っていう言葉に背中を押されて合唱祭に向かった聡実くんが「歌えません」と言い切って、一度は足を踏み入れることを躊躇い、一度は怖い目に遭わされた南銀座を狂児のために駆け抜けるのがあまりにも……あまりにも良くて……このあたりはもうボロボロに泣いていた。
◯スナックでヤクザ相手に怯えながらも啖呵切って叫ぶ聡実くん、自分でも気付かないうちに狂児の存在がすごく大きいものになってたんだろうなと思う。喧嘩別れのような形で見送って、アイツは地獄に堕ちたと言われて、どんな思いで渡されたマイクを手に取ったんだろうか……
◯映画の中で初めての聡実くん一人だけの歌唱シーン、本当に圧巻だった。合唱部の描写だけでは聞こえなかった聡実くん自身の声、掠れる高音を絞り出すようにして、叫ぶようにして歌いながら走馬灯みたいに脳裏を巡る狂児と過ごした日々、鎮魂歌と呼ぶに相応しい「紅」だった。ドアの外で聞いてる狂児の横顔にも胸を打たれて泣いたけど、あの場面で本当に死んでいたとしても、狂児は地獄で聡実くんの紅を聞いて喜んだんじゃないかなと思えた。青春を手放しながら、喪失を惜しみながら、だからこそ胸を打つ歌声だった……
◯全てを終えた後の聡実くんの日々が描かれるなかで、確かに幸福の手触りを伴ったその景色に狂児の存在だけが抜け落ちているのが寂しかった。無くなる南銀座も、廃部になるかもしれない映画部も、卒業する聡実くんも、全部が終わりを越えてその先へ進んでいく中で狂児だけがずっと過去にいて……幻だったんとちゃうか、と言われた聡実くんが思い出の場所を巡って、最後に辿り着いた屋上でリュックのポケットから狂児の名刺を取り出して「居ったやん」って笑った瞬間にエンドロールが流れ始めて情緒がめちゃくちゃになった。いたんだよ……成田狂児は確かに君と過ごしたんだよ……
◯エンドロールの後に追撃喰らって泣いた。まんじゅうこわいの会話がこんな最高な形で伏線回収されると思わないじゃん……!!!泣 聡実くんが狂児に心を開いていくのは分かりやすかったけど、狂児は狂児で聡実くんの存在がきちんとかけがえのないものになってたんだなと思えて良かった。そもそもあの雨の日に歌声を聞いて聡実くんを拉致った時から狂児はずっと聡実くんのこと好きだったんでしょうけど……(号泣) 色んなものが移り変わって永遠じゃない、ということを終盤に描いた後で、本人が死ぬまで基本消えることのない刺青で聡実くんの存在を己の身体に刻み込んだ狂児を映すのは流石に反則すぎた。それはもう永遠じゃん……青春、延長してるじゃん……
◯映画自体は聡実くんの成長と狂児との関係性に軸が置かれてたかなと思ったけど、副題みたいな位置でずっと物語の中にあり続けたのは「喪失と永遠」じゃないかなと思った。あと愛。与えることが愛だとしたら、狂児と聡実くんがお互いに与えた時間と記憶の全ては刹那の青春であり永遠の愛だよ……(特大誇張表現)
以上です。本当に良かった……見た後余韻が冷めなすぎてファミレス行こ。の上巻も買ってきたので今夜あたりゆっくり読もうと思います。いつか原作も買いたい……
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!!!