引用メモ 操作される脳 マインド•ウォーズ Chapter2機械と人間たちp102.103 ジョナサン•D•モレノ著
この二人の人となりは対照的である。チューリングは理論的で気難しく、孤高の天才だった。一方ブッシュはワシントンの有力者で、科学者としてはおそらく初めて、大統領府に多大な影響を与えた人物だ。
『セミオティカ (Semiotica)』という学術雑誌に掲載された論文で、哲学者のピーター・スケイグスタッドは、人工知能 (artificial intelligence (AI)と知能増大(intelligence augmentation/IA) とがどのように歩み寄り、互いに補足し合うようになってきたか、見事に説明してくれている。
チューリング ・マシンとメメックスはいずれも、人間の心がもつ特定の機能を機械に任せようとするものだ。 チューリングが機械化を試みたのは計算と、加えて、もっと一般的な、アルゴリズムで表される推論過程のすべてだ。 一方、ブッシュが機械化しようとしたのは人間の記憶過程で行われている連想プロセスだ。だが、この二つの機械は目的が異なるだけではなく、機械化へのアプローチにおいてもたいへん異なっている。具体的に言えば、チュー リング・マシンはデジタルであり、メメックスはアナログである。デジタル 機械は離散状態で機能し、連続的プロセスを呈することもできるが、可能なのは機能的な面においてのみ、つまりインプット・アウトプットというタームに限られている。仮に同一のインプッ トが与えられたとしたら、デジタル機械は同一のアウトプットを返してよこす。 これは自然が行っている情報処理と同じように見える。デジタル機械は、内部の処理過程が自然のものと実際に似ているかどうかにかかわらず、自然の処理のシミュレーションをしていると言ってよいだろう。
アナログ機械は、これとは対照的に、シミュレーションの対象とする自然の処理過程とよく似た内部処理を行っている。……… チューリング・マシンはシミュレータであり、メメックスはレプリケータ (複製機)なのだ。・・・・・・メメックスは人間の記憶を複製しようとし、そのため、「人工記憶」を具体化するものだと言えるだろう。人間の心と張り合おうとはせず、そのかわりに、記録を迅速に扱えるようにして、必要時には最も役に立つ記録を差し出すことにより、心の届く距離を伸ばそうとするものなのだ。
この結果、スケイグスタッドが言うように「ネットワークとパーソナル・コンピュータという、二つの相補うものが発明された」のだ。
考える機械というチューリングの発想と、人間の心と共に考える機械というブッ シュの発想。この二つが一緒になって、現在行われているブレイン・マシン・イ ンタフェース研究の鍵となる概念を構成している。とはいうものの、やはり、両 者の間には緊張関係がある。コンピュータは心の作用の模倣 (チューリング)な………
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