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展覧会 #29 そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠@東京都庭園美術館

青木野枝三嶋りつ惠はこれまで何度か作品を観たことがあり、アール・デコの建築空間との組み合わせに興味が湧いて、東京都庭園美術館を訪れました。

本展は、現代美術の第一線で活躍を続ける二人の作家、青木野枝と三嶋りつ惠が、当館の各所に作品を配置し、新たな視点でアール・デコの装飾空間を照らし出す企画です。
青木は鉄を用いて空間に線を描くような彫刻で表現の地平を切り拓き、三嶋は無色透明のガラス作品を通して場のエネルギーを掬い取り光に変換してきました。
二人が使用する“鉄”と“ガラス”という素材は、悠久の時を経て今日に伝えられた自然の恵みであると同時に、会場である旧朝香宮邸を彩る装飾として、シャンデリアやレリーフ、扉上のタンパン等にも多用されています。二人は幾度となくこの場所を訪れ、1930年代の装飾空間との対話を重ねて、本展のために一期一会の展示プランを作り上げました。
ともに創作に火を用い、熱く輝く炎によって、素材に生命を吹き込んできた青木野枝と三嶋りつ惠。そのプリミティブな力を宿したフォルムは、自然のもつエネルギーや循環を想起させ、見る者に驚きと気づきをもたらし、私たちを取り巻く世界を新たな光で包み込みます。

東京都庭園美術館HPより

この日は快晴で、美術館周辺では黄色く色づいたイチョウがとても綺麗でした。

そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠
会期:2024年11月30日(土)~2025年2月16日(日)

東京都庭園美術館
東京都港区白金台5-21-9
交通アクセス
JR山手線 目黒駅 東口 徒歩7分
東急目黒線 目黒駅 正面口 徒歩7分
都営三田線/東京メトロ南北線 白金台駅 1番出口 徒歩6分


三嶋りつ惠(1962年~)

三嶋りつ惠はこれまでアートギャラリーの個展を何度か観ていますが、美術館の展示を観るのは初めて。

1階大広間の《光の海》が圧巻でした。
台座のライトに照らされたガラスの陰影が美しく、柔らかい光が溢れる空間。

三嶋りつ惠《光の海》 2024年

これは縄文土器みたいで面白いと思った作品。

飴細工のように滑らかで柔らかい曲線や、ざらざら、ギザギザしたものなど、様々な表情を見せるガラス作品がたくさん並んでいます。

2階への階段を上がった正面に立つ《光の場》。ガラスの雫が滴り落ちるように連なり、光に満たされた作品。

三嶋りつ惠《光の場》 2019年

照明柱が美しいこの空間は、かつては家族が集まる賑やかな場所だった。二万二千個連なるガラスビーズの光をそこに降ろし照らし出す。(三嶋)

展示マップより

2階の制作関連資料の中に作品のスケッチがありました。制作前ではなく、完成後に描いたもの。

三嶋りつ惠《スケッチ》 2019-2024年

作品が完成すると、三嶋は1点1点スケッチをすることを習慣にしている。
形や表面の特徴、サイズや重量などを丁寧に書き留めた紙片は、まさに作家自身のためのカタログ・レゾネ。
そのかたちを愛おしみ、手を動かして記憶に刻む。それらがまた新たなフォルムを生み出す源泉となる。

キャプションより

細長いカーテンのシルエットと呼応するように配置された作品。
「CASCATA」はイタリア語で「滝」を意味する言葉。

三嶋りつ惠《CASCATA》 2008年

滝のように流れ落ちるガラスの流線形がカーテン越しの光を含んでキラキラ輝く姿がとても美しい。

がらんとした書斎には、幾何学的な形の作品。
かつてここにいた人と向かい合っているようで、「追憶」という言葉が思い浮かびました。
静かに時が降り積もる空間。

三嶋りつ惠《MONDO》 2023年

ガラス・サンプルや作品パーツなど制作にまつわる資料も美しく展示されていました。

青木野枝(1958年~)

青木野枝の作品を最初に観たのは都内のアートギャラリー。
鉄の輪を繋ぎ合わせた作品が、あまり広くない空間に目一杯広がっていたことに強い印象を受けて、それ以来気になっている作家。
近年では、森美術館「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」(2022年12月1日~2023年3月26日)のアーティストトークを聞きに行きました。
工房ではひたすら鉄板から円を切り出す作業をしていることや、作品を組み上げるのは展示場所で行っているこなど、まるで建築現場のような作業が行われている制作のお話がとても面白かった。

本館の展示では、室内装飾やシャンデリアと響き合うような作品の形状と配置が印象的でした。

青木野枝《ふりそそぐもの/朝香宮邸—Ⅰ》 2024年

照明の分身のように周囲を取り囲む鉄の輪。それを支える柱が、床を照らす光の筋のように見える。

青木野枝《ふりそそぐもの/朝香宮邸—Ⅲ》 2024年

私が作っているものは、見えないものたち。見えないものを形にしていくのが彫刻だと思う。(青木)

展示マップより

ここは部屋全体の雰囲気がとても良かった。
台の上に積まれているのは石炭。ここでも作品と共に照明の存在が際立ちます。

青木野枝《ふりそそぐもの/朝香宮邸—Ⅳ》 2024年

石炭は日本の近代産業を象徴するもの。地中から掘り出されて、光を受けるときらきらと輝く。(青木)

展示マップより

多くの人の手肌で削られ小さくなった石鹸を積み上げた作品。
こうやって積み重なると綺麗な石、あるいはスイーツっぽく見えて可愛い。

青木野枝《ふりそそぐもの/朝香宮邸—Ⅴ》 2024年

制作関連資料では、スケッチや過去の展示風景などがたくさん展示されていました。

新館のGallery1は一般的なホワイトキューブの展示空間。
広い展示室で作品の間を歩いていると、何故か森の中を歩いているような気分になる。
ここではじめて青木野枝の世界を100%体感できた気がしました。

青木野枝《ふりそそぐもの—赤》 2024年

朝香宮邸の建築空間

今回はガラスと鉄の作品を観ていたので、室内装飾でも同じ素材の装飾意匠に目が向きました。

第一階段
1階 大客室

中でも特に興味を惹かれたのは照明の装飾。

1階 大食堂
1階 小食堂

天井にも装飾が施されているのは贅沢ですね。

2階 若宮居間
2階 妃殿下居間
2階 殿下寝室

ステンドグラス風の照明が色の光で天井を彩っていました。

2階 廊下

建物内は床から天井まですべてが見どころで、優美な空間を堪能しました。
作品と装飾空間が響き合い、相乗効果でお互いを引き立たせていたと思います。
反面、作品自体の輝きや個性、力強さが朝香宮邸という建築空間の場の力に少なからず吸収され、弱められていた感じもしました。
それは、別館Gallery1で青木野枝の作品を観た時に気づいたことです。ああ、これが作品の100%なんだよな、と。

でも、それは私が感じたことで、色々な見方があると思います。

結論、建築空間と作品が融合して、一つの場としての作品になっていたのだという理解に落ち着きました。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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