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展覧会 #35 現代陶芸のすすめ@菊池寛美記念 智美術館

展覧会タイトルの「現代陶芸」というワードに興味を引かれて、菊池寛実記念 智美術館へ行きました。

菊池寛実記念 智美術館は、当館設立者で現代陶芸のコレクターであった菊池智(とも、1923〜2016)のコレクションを母体に、現代陶芸の紹介を目的として、2003年に港区虎ノ門の閑静な高台に開館いたしました。この地は、智の父である実業家の菊池寛実(かんじつ、1885〜1967)が晩年の活動の拠点とした場所であり、美術館の設立も父の余光によるとの想いから、菊池寛実記念と称したものです。当館は現代陶芸を中心に、優れた造形作品をご紹介する様々な展覧会を開催しており、さらに陶芸の枠にとどまらず、現代工芸の発信地となるべく活動を続けております。

美術館ホームページより

菊池コレクション 現代陶芸のすすめ
会期:2025年1月18日(土)~5月6日(火)

菊池寛実記念 智美術館
東京都港区虎ノ門4-1-35 西久保ビル
交通アクセス:
日比谷線 神谷町駅  出口4b より徒歩6分
日比谷線 虎ノ門ヒルズ駅 出口A2a より徒歩8分
南北線 六本木一丁目駅 徒歩8分
南北線・銀座線 溜池山王駅 出口13 より徒歩8分
銀座線 虎ノ門駅 出口3より 徒歩10分

美術館は地下鉄神谷町駅から徒歩5分ほどの場所にあり、緩やかな坂道を上った少し高台に建っていました。

周囲に高層ビルが林立するオフィスビル街のど真ん中ですが、休日はとても静かな雰囲気。

菊池寛実記念 智美術館は、港区虎ノ門に建つ西久保ビルの1階と地下1階に位置しています。西久保ビルは、この地を拠点として活動した実業家の菊池寛実(1885~1967)が所有した敷地に2003年に竣工し、現在はそのビルを中心として大正時代に建てられた西洋館と和風の蔵、百年ほどの歴史の有る庭が渾然一体となり、都心にあって静謐な空間を構成しています。

美術館ホームページより

美術館に隣接する西洋館は国の登録有形文化財に指定されているそうです。(中には入れません)
高層ビルに囲まれた場所にこんな建物が残っているとは、少し驚きました。

玄関を入って廊下を進んだ正面には、美術館の創設者 菊池 智(1923〜2016年)を象徴的に表したという「ある女主人の肖像」が来館者を出迎えるように佇んでいます。

篠田桃紅(1913~2021年)《ある女主人の肖像》(1988年頃)

地下1階の展示室へ降りる螺旋階段の手摺はガラス作家の横山尚人(1937~)によるもの。天井からの光を受けて輝くガラス製の手摺は美しく、非日常の空間を演出していました。(螺旋階段の撮影は禁止)

展示室の設計・レイアウトは菊池 智と親交があった米国人デザイナーのリチャード・モリナロリ(1951~)によるもの。

現在の展示室は開館時のデザイン、レイアウトを2009年に全面リニューアルしたもので、中心となる二つの展示室は、それぞれ展示台や壁面のデザインが異なります。
また、室内全体に和紙を使用し、その質感と色彩を活かした空間となっています。
開館以来、作品を間近にご鑑賞いただけるよう当館では作品をケースに入れず露出展示とし、展示室のデザイン、作品照明と合わせ、当館ならではの環境を整え作品をご紹介しています。

美術館ホームページより

一番の特徴は、ほとんどの作品がガラスケースなしの状態で展示されていることだと思います。全体の照明は最低限に抑えられ、静かで落ち着いた雰囲気の展示空間では、それぞれの存在が際立つようにライティングが工夫されていると感じました。


器の形態に表される個人の制作

展示は2つのセクションで構成され、前半は器形態の作品が紹介されていました。

現代の陶芸制作は多様で、形態、素材感、着眼点など、陶芸や工芸といった枠組みで説明しきれない作品も多く存在するが、それでも日本においてその造形の大勢は器形態にあるといえる。皿や鉢、花器、茶碗といった器の形が個人の表現として作品化されるのである。

展示解説より

花器や壺では素材感や表面の質感で面白いものが目に留まりました。

松井 康成(1927-2003年)
《練上嘯裂文大壺》1978年

ガラスケースがないので、表面の質感をダイレクトに感じられるのがいいです。

加守田 章二(1933-1983年)
《彩色壺》1972年

この作品は編み模様の不規則なところが面白い。ザラっとした質感も好き。

栗木 達介(1943-2013年)
《銀紅彩地文花器》1988年

大型の皿では、自然の風景をイメージさせる絵画的な表現が面白い。

若尾 利貞(1933年-)
《鼡志野大皿》1980年
岡田 謙三(1948年-)
《角皿 風》1979年
三代徳田八十吉(徳田 正彦)(1933-2003年)
《耀彩鉢〈黎明〉》1986年

蓋に刻印されたひらがな模様が特徴的なこの作品は、実用性から一歩踏み出した、作家の表現媒体としての器のかたちなのかなと思いました。器に刻まれた模様は枯山水を連想させます。

中村錦平(1935年-)
《扁壺》1980年

この作品も、器の機能性を保ちつつ、より自由に素材の表現を追求しているように思えます。

藤平 伸(1922-2012年)
《乾坤》1992年

陶のオブジェ的造形作品

展示の後半では、用途のないオブジェ的な造形作品が紹介されていました。

藤平 伸(1922-2012年)
《春の日》1989年

物語的な情景や特定のモチーフを表現したものは、陶土という素材の造形表現を追求している感じがします。

三輪 龍氣生(1940年-)
《ハイヒール》1979年

幾何学的であったり抽象的なものは、独創的なかたちが面白い。

栗木 達介(1943-2013年)
《黄鱗文巻弁陶》1992年

陶という素材の特性を熟知しているからできる造形表現なのかなと思う。

瀬戸 浩(1941-1994年)
《Free standing 8 立体的な8》1981年

美術館の基本理念的なところに「陶芸の枠にとどまらず、現代工芸の発信地となるべく活動を続けております。」と書かれていたとおり、陶以外の作品もさりげなく紹介されていました。
これは、金属っぽいと思ったら、キャプションによると鋳金/合金(アルミニウム・マグネシウム)でできたもの。

北村 真一(1945年-)
《作品》1992年

さらに、陶芸の枠を越えて、テーマ性を強く感じる造形表現も。

鯉江 良二(1938-2020年)
《証言》1982年

陶芸における必然性のある制作の追求と、現代美術をはじめ他分野と繋がる陶芸表現の模索は、現在もその様相を変えながら混在する。そして、器形態も交錯し、各作家、各制作が依って立つ場所は、器かオブジェかという外形からだけでは分からなくなっている。それぞれの時代に呼応した問題意識と感性で新しい制作が探求されていくのである。

展示解説より

私は、美術家が表現したい「何か」を表出する媒体として「陶」を使っているオブジェ的なものを「陶芸」として認識しているかというとそうではなくて、「陶芸」という言葉には器としての機能を備えたものを無意識に期待していると気づかされました。
基本的な器形態から発して、それが現代美術という領域で多様に表現を拡張している様子をみて、「陶芸」という分野の定義を改めて考えさせられました。


建築空間には、創設者である菊池 智の美意識や美術館に込めた想いが随所に感じられ、非日常の空間を演出していました。
1階の「カフェダイニング茶楓 by 温故知新」 に入ってみたかったのですが、満席で待ち状態だったので今回は断念。

今度訪れる際はカフェメニューを堪能すべく時間の調整をしなければ、と思いました。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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