展覧会 #34 ル・コルビュジエ 諸芸術の綜合 1930-1965@パナソニック汐留美術館
建築家のイメージが強いル・コルビュジエの展覧会でメインビジュアルが絵画というギャップに興味を引かれて、パナソニック汐留美術館を訪れました。(ちなみに会場内は撮影禁止です)
ル・コルビュジエ ―諸芸術の綜合 1930-1965
会期:2025年1月11日(土)~3月23日(日)
パナソニック汐留美術館
東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留 4階
交通アクセス:
JR新橋駅 徒歩約8分
東京メトロ銀座線・都営浅草線 新橋駅 徒歩約6分
ゆりかもめ 新橋駅 徒歩約6分
都営大江戸線 汐留駅 徒歩約5分
これまで建築家ル・コルビュジエ(1887‒1965年)について語られていることは何となく見聞きしている程度で、正直それほど注意を払っていない人でした。
ところが、建築以外の芸術作品(絵画、タペストリー、彫刻)を軸に展開する今回の展覧会を観て、コルビュジエの創作活動と芸術観に興味が湧いてきました。
展覧会の中心となっている円熟期(1950年代以降)の創作活動に通底する大きなテーマが「諸芸術の綜合」の概念。
同時代の画家フェルナン・レジェ(1881-1955年)の作品との対比でみたとき、絵画空間に対する態度の違いを感じました。
レジェの場合は絵画の中に一つの世界があってカンヴァスという物理的な画面のなかで完結している印象を受けるのに対して、コルビュジエの絵画を観ていると自分の意識がカンヴァスの外に向かって抜けるような感覚があり、コルビュジエにおいて絵画空間は絵画が置かれる「場」を含む空間として捉えられているのではないかと思いました。
コルビュジエはタペストリーについて、絵画に似た点はあるものの、より建築に近い作品と位置付けていたようです。
コルビュジエ自身が描いた原寸大のカルトンに基づいて、伝統的な綴織で知られるフランスのオービュッソンで制作されたというタペストリーは、陰影の表現が少なく、デザイン性が高い。移動や収納が容易なところが絵画と違い、より建築の一部として空間をつくる働きがあるのだなと思いました。
また、彫刻や建築については、その造形が周囲に影響を及ぼし、周辺の空間からまた形作られるようなものであるという考えから、「音響的形態」、「音響的建築」と比喩的に言い表し、その例として家具職人ジョセフ・サヴィナとの協働で制作された木彫作品と「ロンシャンの礼拝堂」の写真や模型が紹介されていました。
晩年の創作活動では、同時代の芸術家カンディンスキー(1866-1944年)の作品との対比が面白かった。
コルビュジエの作品では、抽象の中にも人体の有機的なフォルムがあり、音符を連想させる記号的な形で視覚的に音やリズムを想起させる感じがしました。
それに対して、カンディンスキーの作品はモチーフがより抽象的なフォルムで、音の響きが直接感覚に届いてくる感じ。
2人に共通していたのは同時代の技術の進歩、特に「放射線」と「光線」の概念に影響を受けていたこと。それでも作品から伝わる印象が全然違うことがとても面白い。
変わった趣向で面白かったのは、「小さな世界」と題されたセクションの展示。
1949年からコルビュジエの建築を撮り続けたハンガリー出身のルシアン・エルヴェの写真作品と、カンディンスキーの版画集『小さな世界』(全12点)を視覚的な調和に基づいてペアを組み、上段に版画、下段に写真という配置で全12組を並べています。
解説に「抽象美術と近代建築の視覚的な共鳴を、感じていただきたい。」と書かれているとおり、上下をセットで眺めると視覚的に似ていると感じられるところがあって、カンディンスキーの版画から聴こえる音と(写真の)建築空間が響き合うように感じられました。
コルビュジエとカンディンスキーが想像した「建築が聴こえる」ことを疑似体験したような気分。
こういう趣向の展示は珍しいと思うし、新鮮な体験ができてとても面白かった。
この展覧会で知った「諸芸術の綜合」を初めとする様々なキーワードについて、本質の理解には程遠いと思いますが、展示作品から自分なりに受け取れたものはあったと思います。
ル・コルビュジエの創作活動は建築分野だけで語れるものではないことが私にとって新しい発見であり、コルビュジエについてもっと知りたいと思うきっかけになりました。
最後までお読みいただきありがとうございます。