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ありのままの強くて弱いわたし

彼といると、子供のころ弟とずっと二人で過ごしていたことを思い出す。両親がいつ帰ってくるかわからない。明日も明後日もたぶんこのまま、二人で遊ぶ。怪我することよりケンカをすることより何より1番怖いのは退屈で、何して遊ぶかだけ考えていた。私のこころは一生あの頃のまま。コクトーの恐るべき子供たちを読んだ時にぞくりと気づいてしまった。
ものすごく素直で子供っぽい彼といると安心するのは、あの時の気持ちになれるからだ。弟はわたしを置いて、すっかり大人になってしまった。

散歩が好きだった。どこまでもどこまでも歩けた。でも、いつからか1人ではうまく散歩できなくなった。彼といる時は、いつまででも歩けた。まるで自分はスイスイ泳ぐ魚みたいな気持ちになった。色とりどりの海藻がゆらめいてるみたいに、街は輝いて見えた。だから、彼と歩いていないときは、散歩はただの苦行になってしまった。


彼の屈託のなさが好きで、安心する。信頼できる。きちんと愛せる。きっと、わたしが愛情を注げる対象は限られていて、たまたま彼がフィットしたんだろう。わたしがたくさんの人にきちんと愛情を注げる人なら、なにか変わっていたかもしれない。

彼はわたしと似ていなくて人懐っこい。デートでは、よくそこら辺のおじさんやおばさんと話すから全然二人の時間にならない。でも一緒にいるとわたしは、彼の目を通して世界を見ているみたいな気持ちになる。おじいさんもおばあさんも、大人も子どもも男も女もいる世界で、生きていることを感じる。

付き合ってから自分は弱くなったと感じる恋は良くない恋で、強くなったと感じる恋は良い恋だ、と誰かが言った。
わたしは、彼と付き合ってから、ショートカットにお気に入りのメガネ、自分に似合う直線的なデザインの服を着るようになった。バリバリ仕事をこなし、提案されたことは断らず、誰でもなんでも関わった。でも、相変わらず人に相談できないし、不器用に行動しては後悔する。彼に甘えて気位ばかり高くなってしまった。涙が止まらない夜もあったり、イヤホンで耳から音楽を流し込まないと正気を保てない時もある。よくない恋といい恋は、きっと裏表の関係じゃなくて、どこを切り取るかだけだ。わたしはありのままの強くて弱いわたしになった。

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