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Vol.27 明和電機 土佐信道さんインタビュー「誰しもが脳という素晴らしいアイデアプロセッサー、すなわち空想力を持っている」【2月3日(土)キヅキランドワークショップ開催】

2021年の夏休みにスタートしたキヅキランドワークショップ。これまでたくさんのこどもたちに参加いただきましたが、思いがけない方向に広がっていくこどもたちの発想にいつも驚かされています。2024年2月3日(土)には、キヅキセンパイに芸術ユニット、明和電機の土佐信道さんをお迎えし、第11回となるワークショップを開催します。独創的なアイデアや発想と緻密なテクノロジーが組み合わさったナンセンスマシーンを生み出す土佐さんと一緒に、メモれる動画を見ながら「あれ?」「おや!」というキヅキを見つけて、自分ならではのものの見方や考え方を膨らませてみましょう。今回は明和電機のナンセンスマシーンの源を探るべく、“社長”の土佐信道さんのインタビューをお届けします。

明和電機 土佐信道さん/芸術ユニット、明和電機の“社長”。様々なナンセンスマシーンを開発しライブや展覧会など、国内外で広く発表している。音符の形の電子楽器「オタマトーン」などの商品開発も行う。2023年はデビュー30周年。7月には明和電機のおかしな楽器ばかりを集めた「明和電機ミュージックマシーン店」を秋葉原にオープンし、2024年にかけて各地で展覧会を開催している。


自分の中身や世界観を変えれば、発想が変わる

——まずはキヅキランドの印象から伺いたいと思います。体験してみてどのような印象をもちましたか?

土佐:今、みんなが当たり前のようにネットで動画を見る時代になりましたが、その人の好みの傾向などを解析してどんどんオススメが出てきますよね。インスタグラムなどのSNSもそうです。便利ではありますが、好みや見方が固まってしまうなぁと、僕自身思っていて。キヅキランドはそういう動画の視聴感覚を変えるようなところが面白いなと、まず思いました。あと、デッサンに似てると思ったんですね。

——デッサンというと、絵を描く?

土佐:そうです。デッサンは目の前の“これ”を描くというものですが、描くためにはまず見るということをしなくてはならない。たとえば、わざと目を細めて見る。これはどこに光が当たってどこに影があるかのバランスを見る方法ですが、普通に注視しちゃうとそういうバランスが見えにくいので、目を細めて情報量を減らして光と影だけを見るようにするんですね。棒(筆記具)を立てて見比べて、ものの距離を測ったり。描いたものを鏡に映して見ることもあります。狂いが一発でわかるので。

——キヅキランドには「科学的なものの見方」を育んでほしいという狙いがあるんです。見方を変えると違う疑問や発見が見えてくるというものです。

土佐:なるほど、「ポイントを変えると違う見え方になる」というのはデッサンにやっぱり似ていますね。あとは、写真で一言!みたいなコンテンツにも近いものがありますね。自分の頭の中身を変えていくことで発想がいきなり膨らむという側面です。たとえば、ただの「交差して組み合わさっている2本の棒」も、キリスト教の人が見ればそれは十字架であり「神」という意味が出てくる。自分の中身や世界観を変えれば、発想が変わってくるわけです。

——明和電機の発明品のアイデアもそういう発想法から生まれているのでしょうか?

土佐:そうですね、いくつか発想法はあるんですけど、一番良くやるのは目の前にあるものに“おかしな”という言葉をつけて頭の中で想像を膨らませていく、というもの。たとえば、「“おかしな”鉛筆削りってどんなものだろう?」と考えて空想を膨らませていく。空想力は人間誰しもが絶対に持っているものです。誰でもみんな脳という素晴らしいアイデアプロセッサーを持っているわけです。


思考にも新陳代謝が必要だから、インプットとアウトプットを繰り返す

——なるほど。そういった発想から生まれてくる明和電機の作品は、マシーンなのにどこか生き物の気配があるものが多いですよね。目がついていたり。

土佐:人は「顔」を見る脳の神経がとても発達していてそれで表情のちょっとした違いでもすぐに把握できるそうなんですが、生物的なビジュアルについてものすごく反応するような部分が僕の中には本能的にあるんでしょうね。もともと、僕は小さい頃から、気持ち悪い生き物を描くのが好きで。

——気持ち悪い生き物ですか。現実に生息している?

土佐:自分で想像した奇妙な生き物を描くのが好きだったんですよ。それが出発点。そういうことが好きな一方で、父親がエンジニアだった影響もあって、論理的に考えたり理性的に考えたりする部分もありました。だから自分の考えたその不可解で奇妙な生き物を論理的に考えるということも好きだったんです。生物の仕組みにものすごく興味を持っていて、図鑑なんかをボロボロになるまで読みこんでいました。
生物というのはやっぱり進化もするし、常識をどんどん変えていきます。ナンセンス(編注:通常の論理を踏み外した事柄)であることが生命力だ、ということに気づいたんですね。それで、論理の塊である機械で、つまりコモンセンスで、そのナンセンスを作れないか、と考えて生まれたのが、明和電機の初期の魚器シリーズでした。

【魚コード】「家電製品にアニミズムの精神を」をコンセプトに開発された、電気コード。©MAYWADENKI

——魚器シリーズは、魚の骨のかたちをした電源コード「魚コード」や指パッチンで木魚を鳴らす楽器「パチモク」など、土佐さんがさまざまな見方で見つけた問い(?)やキヅキ(!)を魚のモチーフで表現したマシーンのシリーズですが、普段どういうふうにものを観察してモチーフを見出しているんでしょうか?

土佐:見るものすべてに「変だぞ」を感じるのではなくて、そういう時にはすでに自分の頭の中に「変だぞを感じるベクトル」が発生していると思うんですね。それにひっかかったものがテーマやモチーフになる。たぶん誰でもそういう「自分なりにひっかかるもの」を持っていると思うんです。それを内に秘めるか、作品にして外に発表するかという違いがあるだけで。僕の場合は、そうやってアウトプットすることで頭の中に描いたものが明確に具体化していくので、どんどん次へ次へ……と広がっていくんだと思うんですね。

——なるほど。土佐さんは作品作りの際にアイデアをいつもスケッチで描いていらっしゃいますが、アイデアを描く/書くということもアウトプットのひとつですよね。そういうアウトプットは制作の過程でどのような意味を持ちますか?

土佐:生物は必ずご飯を食べたら排泄して、酸素を吸ったら二酸化炭素を出してという新陳代謝をしていますが、思考もそうだと思うんですね。入れっぱなしではやっぱりダメで、出した時に「わかる」ってなると思うんですね。「わかる」というのは一番は自分がわかるということ。客観視したときにやっと「自分こんなことやってたんだ」って腑に落ちる。自分の中にある「タネ」みたいなものを膨らませて育てていくとき、インプットとアウトプットを繰り返すことで、焦点が明確になっていくんですよ

【魚コード】開発の際に描かれた大量のスケッチのうちの一枚。©MAYWADENKI


不可解なあり方を残すことは魅力になり得る

——最初にSNSや動画サイトのおすすめ機能のお話がありましたが、今はインプット過多のような気がしますね。黙っていてもどんどんおすすめの情報が集まってきて一方的にインプットされてしまう。そういう点から言うと、キヅキランドの「メモれる動画」はまさにインプット・アウトプットを繰り返す視聴体験でもあるんだなと思いました。先ほど、アウトプットすることで「自分がわかる」というお話がありましたが、アウトプットを誰かに見せてリアクションをもらうということも、発想を新陳代謝する上では大事ですよね。

土佐:リアクションはすごく大事ですね。アーティストのマルセル・デュシャンが「作品は作家のものでも観客のものでもなく、その真ん中にある」って言ってるんですけど、まさにそうだと思います。

——明和電機の作品にはそういったアート的な側面と、もうひとつエンジニアリングの側面がありますが、作品を作る過程でそのふたつの側面をどんなふうに使い分けしているんですか?

土佐:出発点は絶対にアートですね。直感で頭の中にバッとビジュアルが見える。小さい頃からそれを絵でアウトプットしてきたわけです。一方で、サイエンスとかエンジニアリングの思考は数学をベースにした誰にでもわかる論理に落とし込まなければいけなくて、アートの直感で見えたものをエンジニアリングの思考で追い込んでいくんです。ただ、エンジニアリングの場合は絶対に不可解さを残してはいけないんですけど、アート的エンジニアリングの場合は不可解なあり方というか、説明できない部分を残してもいいと思っているんですね。むしろそういう部分を残すことで、みんなが気になるものになっていく。オタマトーンなんて楽器としては顔なんてなくていいんですけど、つけたことでなんか変なものになっている。「どうして顔を?」と聞かれてもそこは説明できないんです。論理的にしっかり追い込んでいるんだけど、最後に「あれ?」という「よく分からん!」というものがあるとそれが魅力になるのかなと思います。

明和電機の電子楽器たちが活躍するアニメ『Otmatoon』のキャラクターたち。中心にいるのが【オタマトーン】。©MAYWADENKI

——小さな頃に気持ち悪い生き物が好きだったというお話と、マシーンに不必要な顔をつけてしまったというお話は、通じるところがあるような気がしますね。人間は誰しもどこか不可解なものに惹かれてしまう本能があって、でも大人になるとそれに蓋をしてしまうのかもしれません。明和電機のナンセンスマシーンの魅力はその蓋をバーンと開け放ってくれるところなのかな、と思いました。

土佐:大人だけでなく、思考がパターン化している子どもも少なくないですよね。それを解き放つためには、やっぱり大人がリミットを外した姿……不可解な大人を見せることかなと思ってます

——ワークショップで是非、不可解な大人を見せていただければ! 土佐さんは今度のワークショップの狙いや計画みたいなものはありますか?

土佐:すでにキヅキランドの仕組みに集合知の面白さがあるので、僕は庭師のようにそこで起きていることを見守りながら、芽が出そうなものにちょいっと肥料や水を与えるような存在でいいのかな、と思ってます。もしかしたらすごい奴が現れて「ゼロの発見」みたいなことが起きるかもしれない……!

——ぜひ土佐さんには庭師として楽しんでいただければと思います。「ゼロの発見」の瞬間を見逃さないよう私たちもぜひ一緒に見守っていきます!


Illustration: Haruka Aramaki

ワークショップの詳細、応募はこちらから!
https://kizuki-ws2024winter.peatix.com/

土佐さんからのメッセージはこちら!


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