【ネタバレ】【読書感想文】三体(第一部から第三部と、netflixのドラマ)
三体、最高に面白かった。
netflixの三体がスーパー面白そうで、ドラマを楽しむためには原作読んでおかないと、と思って、長らく、中国人登場人物の発音が覚えられなくて積読になっていたものを引っ張りだしてきて一気に読んだ。
そして、読み終わって、netflixのドラマも観た。
どっちも最高だった
以下、ネタバレしかないのでご注意ください。
僕が三体から読み取ったテーマは「科学」
一年半前に、銀英伝を一気読みして以来の、長編SF小説。
中国文学の三体にまで、ヤンウェンリーのセリフが引用されてて、銀英伝を事前に履修しといてよかった、と思った。
銀英伝が宇宙を舞台にした政治と戦争の物語であるなら、僕が読み取った三体のテーマは「科学」だった。それも、科学をめためたに痛めつけてみせることで、科学の成立要件を浮き彫りにする物語。
第一部が、中国において文化大革命において、物理学者の葉哲泰が殺されるシーンから始まり、三体世界から科学者が精神的に追い詰められ死を選ぶシーンが続き、そして最後は智子によって素粒子物理学が「殺される」シーンで結ばれており、科学が正常に機能していない世界が描かれている。
何が科学を損ねているのか。
三体によると、科学を損ねるのは国家権力や群衆の圧力。
そして、自分たちよりも圧倒的に進んだ知性をもつ生命体によるnatureへの介入。
裏返すと、科学が成立するためには、知の探究が妨げられることがない自由な環境と、natureの中には、nature以外から侵されることが絶対にない領域があると信じられる、ということが必要なんだと思う。
「誰にも研究が邪魔されない」ということの重要性は分かってたつもりだったけど、たとえば、素粒子の振る舞いが、観測の際に、何かによって作為的に操作され得る可能性って、絶対ないと想定して研究しているな…と思った。
engineeringする領域とscienceの領域、半ば無意識に分けている気がする。
そんな風に、科学の成立要件を描いている、と読み取ったので、レイチェルカーソンの沈黙の春が冒頭出てくるけど、「行き過ぎたテクノロジーへのアンチテーゼ」みたいなメッセージは、あまり感じなかった。
絶望への向き合い方
そして、科学に加えて、この本から読み取ったもう一つテーマは、絶望に直面した時に人がどう振る舞うのか。
克服型と、逃避型の両方のスタンスの人々の動きが描かれていて、両方の思惑がお互いの存在を脅かすなかで、精神印章を使って思惑をひっくり返す、というのは読んでいて面白いポイントだった。
一方で、この本は、みごとの登場人物に誰一人魅力がないことも素晴らしい。
ぎりぎり、長老化した羅輯は達観していてかっこよさを感じなくもない。しかし、銀英伝で、ヤンウェンリーに憧れるか、ラインハルトな憧れるか、みたいな、「この人の生き方はいいな」と思えるような登場人物がまじで出てこない。
「そんな境遇に身を置くことになったら最悪だな」もいう感想にしかならず、そこがリアルなのかもしれない。
netflixのドラマも最高
そして、ドラマは3話の終わりに流れるRadioheadのkarma policeが最高。もう、ドラマ観てから、ずっとradiohead聞いちゃうくらい、物語にハマっている。
ドラマは、原作の忠実な再現、というよりは、三体という小説をベースに、再解釈したのね、というつくりになっているけど、この編集も、割と展開早くて好き。なにしろ小説がそもそも長すぎる…
インターステラーが好きな人は、たぶんこのドラマ好きだと思う。
好きなフレーズ
最後に、読んでて最高だな、と思ったフレーズを二箇所引用しておく。
もし、俗世間に溶け込んで生活する史強のような庶民の精神を、未知への恐怖が押しつぶそうとしても、狂森や棚冬の場合と同じようにはうまくいかない。彼ら民は、未知なものに対抗するたくましい生命力を有している。その力は、知識ではけっして得られない。
いまの時代、義務感と道義心はどっちも理想なんかじゃない。どちらかが過剰になると、社会圧力性人格障害と呼ばれる心の病だと見なされる。治療を受けたほうがいいですよ