見出し画像

一貫しない、を前提にすると。

私は子どもの頃から噂話が好きではなくて、とくに「あの人ってこういう人だよ」という他者に対する評価的な話は、軽く受け流すようにしてきた。
それは、その人にとっての、その人だもんね、と思っていたからだ。

実際、他者が話す「その人」は、私と一緒にいるときにはまったくそんな風ではない、ということが多々あった。
また、「あの人ってこういう人だよね?」と同意を求められる時は、ときに悪意が込められているケースもあったりする。「あの人」が友人で、さらに「こういう人」と私が思わなかった場合は、「うーん、そうかなあ?私はそう思わないけれど、何かあったの?」と返したりして、たやすく同調しないようにもしていた。

人というのは一面的ではなく、多面的な存在だ。
ということを、子どもながらに直観していたのではないかと思う。

※ただし、ホモ・サピエンスが繫栄したのは噂話と虚構を創る力があったからだという説があるので、私という種はきっと繁栄しないのだろう。無念。

*********

で、なんで突然こんな話を始めたかといえば、先日コレを観てきたからなのだ。

三谷幸喜さんが大好きで、映画はほとんど制覇している。
というのも、2020年のコロナ禍元年、完全なるステイホームだった時期に、我が家では免疫力強化のため「爆笑の日々を送る」という戦略をとったからだ。
アマプラやネトフリで、コメディ映画を手あたり次第探したが、もともと好きだった三谷幸喜作品には大変お世話になった。

で、今回、5年ぶりの新作、ということで喜び勇み劇場へ向かった。

ストーリーは長澤まさみ扮するスオミが行方不明になるという事件があり、現夫に加え過去の夫たち4人が集合。それぞれに「まったく」違うスオミ像を語り合いながら彼女の捜索にあたる、というミステリーコメディ。
果たしてどれが、本当のスオミ像なのか……??
自分の目の前にいたスオミこそが本当のスオミだろう。
それぞれの葛藤がよくわかる。

ただし。
「5年ぶり待望の最新作にして最高傑作!」というキャッチコピー。
………だったけど。うーん。


私にとっての三谷幸喜最高傑作は、竹内結子さん主演の『大空港2013』。
なんと100分ワンカットというのもすごい!な、爆笑ドラマです。

おすすめ。

***********

ところで、「人によって『その人像』が全然違う」という物語といえば、真っ先に思い出すのが有吉佐和子さんの『悪女について』だ。

謎の死をとげた、美しい女性実業家・富小路公子に関わった27人の独白で構成された小説で、当の富小路公子本人が語るページは一切出てこない。
これがまた見事に、27人それぞれで印象がまったく違うのだ。
ある人は天使のようだといい、ある人は極悪な詐欺師だといい、果たして同じ人のことを言っているのか?と思わせる多面性。そして、そのバラバラな印象のまま、物語は幕を閉じる。

スオミの話をしよう、でふと思い出してサーッと読み直したけれど、令和の今も色褪せない小説だった。(発売は1983年)

27人それぞれが語る富小路公子は、それぞれに本当の富小路公子なのだと私は思う。どんな顔も、本人だ。
人というのは本来多面的で、外界の刺激によって誘発される面というのはある程度、変わってしかるべきだろう。
(富小路公子はそれがあまりにも過剰であったし、人間の多面性以外の要因もあったろうけれども)


「人にどう思われるか気になる」
「一貫した自分軸がほしい」
などのお悩みは、カウンセリングやコーチングの場面でよく聞くもののひとつだ。
そういう方は、富小路公子という人物を知るといい。
前提を変えれば、世界の見え方が変わるかもしれない。

この記事が参加している募集

いただいたサポートは、良き文章が書けるよう使わせていただきます☺