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嵐のあとの成熟

確か、高校一年生の時だったと思う。

キッカケもプロセスもまったく覚えていないのだけど、母親と喧嘩をして、泣きながら激しく言い返している間に、私は急に全身が痺れて、倒れた。
しゃくりあげながら呼吸が制御できないほど激しくなり、そのまま動けなくなってしまった。
「ちょっと、大丈夫⁉」という母の声は聞こえるものの、返事をすることができない。

母は、床に倒れて全身を細かく痙攣させている私を抱きしめ、両脚で私の脚を挟んでとめた。そして、左手でガシッと私の身体をつかんだまま、もぞもぞと毛虫のように移動し、やっとの思いで右手を電話の子機に伸ばすと、近所のおばさんに電話した。

「ちょっと、Sさん!お願い、ちょっと来て‼」

Sおばさんはおそらく60歳前くらいで、一人暮らしの方だった。
子どもがいる娘さんが一人いるのだが、仲違いをしたらしく、実家であるSおばさんの家には寄り付かなかった。
私の母とSさんは、年の近い親子のような友だち関係で、よく我が家に遊びに来てくれる間柄だった。


昔の家というのは、のどかである。玄関のカギは開けっ放し。
電話から3分もしないで、Sさんは「どうしたのー!」と叫びながら家の奥までドタドタッと入ってきた。
目の前には、床の上に抱き合って転がる母と娘。


「なんか、なんか急にこんな風になっちゃったのよ‼」と母。

今思えば、たぶん、泣きすぎて過呼吸になっちゃったんでしょうね。私。
当時は過呼吸って一般的ではなくて、何が起こったか誰もわからず。
とはいえ、母にギュウっと抱きしめられて呼吸が制限されたからか、しばらく時間が経ったこともあるのか、Sおばさんが家に入ってくるころには、私は落ち着きを取り戻していた。
Sおばさんに状況を訴えた後、私の顔を見て少しは状態が良くなったことに気づいた母は、うっすら涙を浮かべながら、私の背中を猛烈に撫でた。


Sおばさんはその光景を見て、細かい説明は何も求めないまま、床に座り込んでしみじみ泣いた。

「いいわねえ……私も、こんな風に娘と抱き合って、泣きたかったわあ……」


両脚をカニばさみされた女子高生。
カニばさみする母親。
となりで座り込んで泣いている近所のおばさん。


深刻さと滑稽さは、いつも背中合わせである。


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なんでこんなことを急に思い出したかといえば、この映画を観たからなのだ。

https://www.disney.co.jp/movie/insidehead2


シリーズ1では、人の「感情」を擬人化して、その働きをコミカルに、でもわかりやすく表現していた。
どんな感情も、大事な存在。
心がほぐれる良い映画だった。

前作が良かったので2も観たけど、これまたわかりやすくて良かった。
細かく書くとネタバレになっちゃうからなるべく伏せるけれど、思春期の心の動きがよーくわかって、これまた良い。
私は子育てをしていないけれど、思春期のお子さんを持つ親御さんは救われるのではなかろうか。
(とくに、キャラクター「ダリィ」が私は好き。あるよね、こういうの)
先述した、私の痙攣話みたいなことに対しても、一応は腑に落ちるだろう。
(結局、私自身、過呼吸が起こるほどに狂乱してしまうのはなんなのか、何が起こってこうなっちゃったのか、わけわからないんだから、母がわかるわけもない)


今回の映画では、主人公が思春期を迎えたという場面設定だけれど、人というのは一生、こういうプロセスを経て成長するのだろう。
2歳の男の子を子育てしている友人が、「今、絶賛イヤイヤ期で癇癪起こしてばかりなんだけど……脳が発達している最中だと思ってがんばる」と言っていたのを思い出す。親御さん、頭が下がります。



子どもの頃だけでなく、私たちは人生を通じて、自分でもよくわからない、扱いきれない嵐のような内面を抱える時期があり、その中で必死に新しい自分を再構築する。
そりゃ、大人になれば癇癪起こしたり暴れることは無くなっていくだろうけど、内面の嵐であることは変わりない。

その嵐は、これまでの自分を構成していたものを壊し。
けれども外側で毎日の時間は過ぎていくから、外界の刺激に応えつつ、後悔や焦りを繰り返しながら、けれども、それまでの自分を構成していたものたちすべても一丸となって、今の自分を応援し、創りなおしてくれる。
こうして、より、内面の複雑さを増しながら、我々は成熟していくのだ。
嵐や混沌の先に、熟した私が待っている。



なんて人生って、愛おしいんだろう。


いや、違うな。


なんて、私の生命というのは、愛おしいんだろう。
ありがとう、私のすべて。
ありがとう、これまでの経験のすべて。
ありがとう、出会ってくれた人たち、すべて。

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ところで、この映画のサイトの中に「インサイドヘッド2脳内メーカー」っていう診断ゲームがあるのだけど、私の結果(kiyonoで入れてみた)はコレ。

えーっと。
もうちょっと、複雑さがほしいです………(笑)

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Kiyono Watanabe
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