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しんどさの共有と励ましの輪──キントーン×当事者研究
2023年1月現在、デイサービス(生活介護)に通所しているえっちゃんとサイボウズ社員である私はキントーンという情報共有ツールをつかって「チームで行う当事者研究~僕が僕で私が私であるために」に取り組んでいます。
当事者研究とは何か?
当事者研究のきっかけをくださった東京大学先端科学技術センターの熊谷普一郎先生による当事者研究の説明を共有します。
当事者研究とは、「困難を抱える本人が、専門家や支援者に自分の困難の解決を丸投げすることなく、類似した困難を持つ仲間とのやり取りを通じ、困難のメカニズムや対処法について研究する営み」であり、強みだけでなく、弱さや傷付きをも持つ等身大の自分を、 他者との対話を通じて正確に理解しようとするためのプログラムである(熊谷 2020)
内閣府経済社会総合研究所『経済分析』第 203 号 2021年
当事者研究の導入が職場に与える影響に関する研究
いつ、どのように行っているか?
当事者研究といえば同じ時間に集まりホワイトボードに書き出すといった方法も紹介されていますが、この取り組みはオンラインで行っています。
簡単にアプリをつくれてメンバーと情報共有ができるキントーンをベースに交換日記のようにコメントしあい、定期的にZoom、臨時的にメッセンジャーで対話を重ねています。
ミーティングの議題や記録、当事者研究で深ぼりたいテーマはキントーンのアプリにし、雑談のスレッドも用いてやりとりをしています。
きっかけは?
えっちゃんと私の出会いは「しんどいっていえない」というオンラインのイベントです。
交流を重ねるうちに、えっちゃんがしんどさを共有するアプリをつくりたいと考えていることがわかり、一緒にキントーンを使うことになりました。
私たちの取り組みを当事者研究としようと決めた日から、私も自分なりの記録をつけています。
私はがんの治療をし睡眠障害を感じているのですがより健やかに生きるためにも当事者研究は有効ではないかと考えたからです。
支援・被支援といった非対称な関係ではなく当事者性を発揮し自分事として行うほうがよいと思えました。
えっちゃんは1か月の振り返り記事でよかったことをわかりやすくまとめてくれています。効果がでていて嬉しいです。一部の支援者さんとの情報共有に使うこともあるそうです。
① 気持ちを選ぶ練習としての日記
② 精神的不調時の状態の把握
③ 言いにくいことを吐き出せる場
④ 支援者さんとの情報共有・話のきっかけのツール
⑤ 精神的不調時のしんどさの共有、共通の用語の認識
⑥ お互いをよく知りコミュニケーションのきっかけになる
よかったこと
1.互いを励まし合う関係になれる
自分も記録する立場として振り返ってみてまず感じることは、互いを励まし合う関係になれているということです。
私自身のしんどさの共有が励ましをへて回復につながったエピソードを紹介します。
私はある土曜の夜、事務局をしている団体のオンライン講座を体調不良のため迷いつつも休みました。
それに対し、えっちゃんは「おかえりなさい」という曲をつうじて気持ちを表してくれました。
次の日、私は「ただいま」と回復したことを報告し、えっちゃんは「おかえりなさい」と応じてくれました。一連のやりとりには、キントーンが日々出入りする居場所のような温かな場所になっているのを感じました。
受け入れてもらえる関係に人は安心感や癒しを得るそうです。
自然体で接していても「この人は受け入れてくれる」と思えるような関係から、人は安心感や癒しを得るし、そこを拠点に新たな挑戦に踏み出そうと思える。
今回のように不調を感じたとき休むことは心苦しいですが、選択を肯定してもらえることは安心感や回復につながります。
このキントーンにはもう1名、私の親友でピアサポートワーカーをしているあっちゃん(松崎淳子さん)も見守ってくれています。
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あっちゃんはNPOの音楽療法にえっちゃんと私が参加できるようにしてくれたり、日記アプリにコメントをくれたり、ときどきミーティングに参加し、リカバリの話や精神科受診に話してくれます。
ときどき、あっちゃん自身の気持ちを共有してくれることもあります。えっちゃんが「弱音をはいて大丈夫」と励ますときもあります。
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当事者研究の理念の一つは「弱さの情報公開」です。弱さを持ち寄ることで信頼や助け合いが生まれます。
頼ることは、相手の力や知恵を引き出すことにつながり、頼れなかったときに比べ互いに嬉しい状態になれる可能性があります。
当事者研究では、お互いの「弱さ」や「苦労」を持ち寄ることによって、人がつながり、その場に信頼と助け合いが生まれ、新たな知恵が創出されることを大切にしてきました。ですから、「弱さ」とは、大切な生活情報のひとつであり、みんなで分かち合うべき共有財産なのです。
「しんどいっていえない」をキーワードに出会った私たちは、離れて暮らし年齢も異なりますが心の距離は近くなりました。利害関係がないからこそいえる安心感もあるのではないかと思います。
障害や病気、背景も違うからこそ、それぞれの悩みとリソースをかけあわすことで、何倍にもインパクトをふやせる可能性を感じます。
2.自分を客観的にみられる
私は日記アプリに疲労度や睡眠時間、睡眠導入剤の量のデータもいれています。ひと月ほど記録をとると傾向がみえてきました。
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・できれば薬なしで眠れるようになりたい
・そもそも寝るのが遅い
といった事情から薬は処方される半量で飲む日も多くありました。
当たり前ですが、1錠と比べ睡眠の長さや疲労度は異なります。
早めに薬をのみ長めに就寝できる日を増やしていきたいと思います。
3.当事者視点で福祉について学びをえられる
えっちゃんは日々感じていることをキントーンで伝えてくれています。
デイサービスや訪問看護や介護、様々な感覚や就労への思い、えっちゃんの歴史や参考資料を当事者目線で教えてくれるので、とても勉強になっています。
課題
私が記録を書けていない日にえっちゃんを心配させてしまったこともありました。そのことを知ってから、パソコンを開けない日もできるだけスマホで記録するようにしています。
チームワークあふれる社会を創る
キントーンを提供しているサイボウズはチームワークあふれる社会を創ることを目指しています。
社長室のミッションは未来に向けた芽を育み、社会課題の解決に向けて新しいチームワークのモデルを創り広めることです。
昨年11月の日曜日の音楽療法は、思いがけず「いいチームの日」(サイボウズが11月26日を記念日に制定)にちなみ友情の歌「Best Frend」をこのチームのあっちゃん、えっちゃんと歌う機会に恵まれました。サイボウズの企業活動が多様なチームに広がっているのを嬉しく実感しました。
引き続き、健やかに生きるためのチームワークのモデルづくりに取り組んでまいります。