7/4 念願の温泉に行くのだが……
マナリはあくまでも通過点のつもりだが、1箇所だけどうしても行きたい場所があった。
それは温泉だ。
マナリの北2kmの場所にヴァシシュト(Vashisht)という村があり、ここには共同沐浴場の温泉があるらしい。
ぼくのうっかりミスから、ヌブラ渓谷の温泉に行きそびれた経緯があったため、ここの温泉にはどうしても行きたかった。
そのため、あらかじめヴァシシュト温泉近くのホテルをネットで予約しておき、今日は温泉でのんびりする予定だった。
汚い話だが、ラダックにいた時、3〜4日に1回しかシャワーを浴びていなかった。
ほとんど汗をかかなかったし、体が濡れると寒くてたまらなかったからだ。
ぼくはこの温泉で、溜まりに溜まった旅の垢を一気に落としてやろうと目論んでいた。
マナリの繁華街から、ヴァシシュトまで歩いて移動する。
いかにも温泉街らしく、狭い坂道には土産物屋や食堂が密集している。
欧米人や裕福や避暑客が多いからか、なかなか瀟洒な雰囲気である。
あらかじめ予約していたホテルにチェックインし、ぼくは意気揚々と温泉へ出かけた。
温泉はヒンドゥー寺院に隣接するように設置されている。
屋外の小さなプールのようなところに温泉がためられている。
インドの温泉ということで、あまり期待はしていなかったのだが、温泉大好き日本人が見てもなかなか好感触なのである。
しかし湯船に浸かる前に、温泉垂れ流しのシャワーを浴びるや否や、その期待はすぐに萎んでしまった。
あまりにも熱いのだ。
びっくりするくらい熱い。
思わず日本語で「あっつ!」と叫んでしまったくらい熱い。
シャワーを頭から浴びることすら困難なのだ。
「アチアチ」と言いながら、手ですくったお湯で体を濡らす。
一応体を洗って湯船まで行くと、案の定、プールに溜まった温泉も熱いのだった。
体感としては、40度を越えている。
45度くらいはあるのではないだろうか。
お湯からはほのかに硫黄臭がし、湯の花が浮いていて、いかにも気持ちよさそうな風情を醸し出しているのが非常に憎らしい。
インド人もプールの縁に腰かけて、足をチャプチャプさせている。
中には頑張って肩まで浸かる猛者もいるが、すぐに上がってしまう。
温泉を愛し、温泉に愛された日本人代表として、余裕で湯船に浸かる姿をインド人に見せつけたかったが、そんな芸当はとてもじゃないが不可能なのだった。
ぼくは、手ですくった温泉のお湯で何度も体を拭き、温泉に入ったことにした。
何だか釈然としないが、そうするしかないのだった。
もしかしたら、寒い季節に来たらちょうど良いのかもしれない。
すっかり温泉に打ち負かされてしまったぼくは、ヴァシシュトの村を散策する。
ゲストハウスと民家が入り混じるように家が建ち並んでいる。
普通の民家は粗末な作りのものも多いが、外壁がパステルカラーに塗られているからか、おしゃれな感じがした。
今にも崩れ落ちそうな木造建築も、なぜか風情が感じられる。
デリーとラダックの中間に位置するマナリは、位置関係だけでなく、文化的にも交流地点であるようだった。
チベット仏教のタルチョが風にひらめいている一方、市内にはヒンドゥー寺院もある。ターバンを巻いたシク教徒の姿もあれば、ヒジャブをかぶったムスリムの姿もある。
また、恵まれた自然と気候ゆえに長期滞在者が多いからか、至る所にヨガ道場がある。
ヨガ道場が多いということは、ヒッピー風の西洋人も集まっている。
マナリは寒冷な高原リゾートだが、バンコクやバリ島といった東南アジアのバックパッカー街に雰囲気が似ている。
明るいうちにホテルに戻って、絶景を望むバルコニーでのんびりと過ごした。
ホテルが多いマナリは価格競争が激しいのか、今回の旅で宿泊した部屋の中で最もコスパが良いと感じた。
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