のすたるじあ/新井きわ
私たち血の沸点で生きている家族ですからとめどなく 狂
正気とね狂気のあはひにゐるわたし言葉の鉈(なた)でぶんぶんぶん殴る
兄さんの鷲鼻 少し生きづらく壁にぶつけたりしたでせう。好き
姉さんと呼ぶ人は他人のやうでしたいいえ、湘南社協の人よ
亡くなれば燃えるだらうか父の歯のインプラントを案じておりぬ
澱んでる海のなかでの秘密だよゆまりを放つ父さんのマネ
サングラス波に奪(とら)れた父さんが「生きてるよ」つて足をぴらぴら
声高に叫ぶではなく声殺し囁く人を母に持ちおり
涙つと流せば眉間寄りときに般若の相なる母はあでやか
蟬の死はのすたるたるじあ おおははの手は美しく畳まれてゐた
※一部、虚構が混じっています。