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新聞小説(+挿絵)という文化は消えるのか/前編
イラストレーターの役割が多様化した現在、どのくらいのイラストレーターが新聞小説挿絵の仕事を意識しているのかはわかりません。
僕にとってはイラストレーターになったときから憧れであり、目標でした。古いところでは小村雪岱はもちろんのこと、永井荷風『墨東綺譚』の木村荘八による挿絵も好きでした。現役の人では加賀乙彦さんの小説『湿原』のために描かれた、野田弘志さんの鉛筆ハッチングによる写実挿絵に感動したり、井筒啓之さんの仕事もよく見ていました。
新聞小説は毎日掲載されますので、基本的には毎日挿絵を描きます。実際には、あらかじめまとめて原稿をもらえることも多いと思いますので、文字通り毎日〆切があるわけではないですが、状況によるでしょう。旅行へ行けなかったり体調を崩さないように気をつけないといけない緊張感があります。
僕が初めて新聞小説挿絵の仕事をすることになったのは2002年です。Photoshopでインチキ版画風のタッチを描き始めたのが2001年ですので、デジタル制作に移行してからすぐで、イラストレーターとして開業してから10年ちょっと経った時点のことでした。
最初の新聞小説挿絵の仕事が朝日新聞朝刊だったのも、非常に幸運だったという以外の何物でもないと思っています。
奥泉光さんの『新・地底旅行』という小説の挿絵で、新聞社の人と青木ヶ原樹海や岩手の龍泉洞という鍾乳洞に取材旅行へ行ったりしました。
新聞小説といえば、題字もイラストレーターが描くのが伝統で、僕も新・地底旅行のタイトルを描きました。
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挿絵はこんな感じです。
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日によってカラーで印刷されるか白黒になるか未定だったため、カラー版とモノクロ版の両方を作っていました。カラーで描いたものを単純にモノクロに変換しただけではコントラストが弱まるので、変換後に再調整していました。これが比較的容易だったのは、版画風に色ごとにレイヤーを分けてデジタル制作していたからです。そこはデジタルならではかもしれません。
大部分地底が舞台の小説でしたので、空想世界を自由に想像して楽しく描けました。といってもほとんど地底ということは、背景は基本的にシンプルになることが多く、あまり資料が必要にならないのも描きやすかった点です。
ご興味がある方はこちらで全挿絵294点をご覧になれます。
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次に挿絵を描くことになったのは、2015年に毎日新聞に連載された内田康夫さんの『孤道』です。やはり事前の取材旅行がありまして、内田さんや新聞社の人と熊野古道へ行きました。
このときは、最初からモノクロ印刷が決まっていましたので、モノクロで描きました。僕はモノクロでも普段は5階調程度のグレースケールで描くことが多かったのですが、白黒2階調だけに制限して描くことに挑戦してみました。特にそのように指定されたわけではなく、自分で決めたことです。
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ハッチングによる階調表現を使わず、線もなるべく少な目にした白黒2階調は、けっこう難しかった記憶があります。
連載中に内田さんがお体を壊されて小説は完結せずに中止となってしまいましたが、挿絵全204点はこちらでご覧になれます。
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三回目の新聞小説挿絵の仕事は、2020年に読売新聞に連載された角田光代さんの『タラント』です。
コロナ禍であったため、取材旅行はありませんでした。
このときもカラー版とモノクロ版の両方を制作しました。
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タラントは現代の、現実世界が舞台の小説でしたので、取材旅行はありませんでしたが、自分でいろいろと資料を集める必要がありました。話題は香川県のうどん屋からネパール、中東、太平洋戦争、パラリンピックまで含まれますので、個人的にはなかなか難易度の高い挿絵でした。
こちらで全挿絵360点ご覧いただけます。
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これまでのイラストレーターとしてのキャリアの中で、新聞小説挿絵の仕事は全部でこの三つです。
前編では自分がやってきた仕事を紹介しました。後編では下記メンバーシップで新聞小説挿絵の仕事を得る経緯やギャランティなどの話も含めた現実的なこと、今後のことなどについて書いてみる予定です。
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