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祝!TONY賞受賞!Strange Loopは日本人が見ても楽しめる?

ミュージカルオタク、特に作り手を目指しているなら観て損はない!

ニューヨーク観光の1つとして観るなら、Music Manでヒュー・ジャックマン観た方がいいかも。

・・・というのが私の感想です。

私はブロードウェイミュージカルが大好きで、さらにこのミュージカルライターが私の大学院の先輩Michael R. Jacksonが自分が大学院卒業後の経験を書いた作品だったこともあり、共感できる物語で大満足でした!批評家からのレビューも高く、TheatreManiaの批評家は4月の時点で「トニー賞とってチケット取れなくなる前に見ておきましょう」という見出しを出すほど今年一番期待の新作ミュージカルです。

あらすじ

BigでBlackでQueerな主人公Usherが、BigでBlackでQueerな主人公がBig でBlack でQueer なキャラクターのミュージカルを書く、BigでBlackでQueerな・・・

つまり、大学院を卒業したミュージカルライター、Usherが、ブロードウェイを目指して自叙ミュージカルを書く中で、家族との関係、黒人でありゲイであるという自分のアイデンティティとの向き合い方について葛藤する彼の心の中を描いた物語です。ミュージカルは、主人公Usherと、彼の心にいるキャラクター、6人のThoughtsで繰り広げられます。インターミッションなし、約90分の作品です。

チケット買う前の注意点

チケット買う前に、あれ、期待していたのと違う、、、とならないように、私が日本人の友達にStrange Loopの説明をするときはまず以下3点を伝えます。

1.  英語が聞き取りにくい

キャラクターが喋るセリフや歌詞は、いわゆる日本で教科書から習う英語ではなく、単語が省略されていたり、発音が独特だったりするので、言葉を追うのは結構難しいです。英語ネイティブの友達も、歌詞聞き取りにくい部分があったと言っていました。私はミュージカルを見ただけだと話が理解できず、脚本を読んでようやくどんな物語か分かりました。

2. 個人の感情を突き詰めて書いているので、共感できないシーンも多い

メインソングの歌詞にあるように"a big, Black, and queer-ass" な主人公がブロードウェイを目指してミュージカルを描く自叙伝ミュージカルのため、アメリカの人種や性的マイノリティに対する考え方を理解している前提で話が進みます。そのため、普段そういった文化に触れていないと興味を持ちにくいシーンもいくつかあります。ちなみに、私の大学院の教授(彼もTony賞受賞者)もStrange Loopは興味が持てず、行っていないと言ってました。理由として、”自分はこの作品に対して、Too Oldで Too Whiteだから”だそうです。

3. ユーモアを評価されているが、脚本読んでもわからない

いくつかのレビューは、セリフの面白さ、コメディー要素を評価していました。劇場でも、終始笑い声が聞こえる作品です。しかし、私は全くその面白いポイントがわからず。。脚本読んでも何が面白いかわからず、、おそらくネイティブ並みのリスニングと語彙力、文化認識が求められる面白さなのだと思います。

前置きが長くなりましたが、特に、ミュージカルを書きたいと思っている人に向けて、Strange Loopのおすすめポイントを2つあげたいと思います!

①ミュージカル終わった後も、頭の中でループする音楽

ミュージカルの冒頭の"Intermission Song" は6人のThoughtが主人公を呼ぶ、 "Usher"という声から始まります。この"Usher"というシンプルな曲のモチーフが、何回も作品中で繰り返されることで、彼の心の中の混乱が如実に描かれています。そして、間違いなくミュージカルが終わった後も、この"Usher"という声が私たちの頭を回り続けます。

もう一曲、ラストの曲"Strange Loop"は、最初の歌詞、"I AM THIS STORY'S WRITER, I'M VARELY SRAPING BY"というたった2文のメロディーを、24回も繰り返します。でもテンポを変えたりオーケストレーションに変化をつけることで全く飽きない曲どころか、耳について離れない、まさに頭の中でループし続ける印象的な曲になっています。英語でミュージカルの歌詞を書く場合、同じメロディーを使う際は、ただ同じ音節数単語を書けばいいというわけではありません。同じタイミングで韻を入れなければいけないし、さらに、以下のように、毎回英語の強調する音節を同じタイミングで持ってこなければ行けません。

i am this STO-ry WRI-ter

when i am NO-thing MORE than

これを24回繰り返せるというのは、作詞家の語彙力の賜物です。

② 主人公Usherのキャラクターは唯一無二の存在

ディズニーミュージカルをはじめ、ウィキッド、ジプシー、オペラ座の怪人など、長く愛されるミュージカルは、必ず個性的な主人公がいるもの。主人公Usherも間違いなく、その1人です。Usherは、黒人の書く典型的な作品と思われている、ゴスペル音楽だったり、差別を訴える作品を書くことに抵抗を持ちながらも、生活費のためにゴスペルのゴーストライターの仕事を行ったり、生活の物足りなさから、デートアプリで彼氏を探し、最終的に怪しい白人男性で童貞を捨てることを試みたり、そんな状況でも、常に母親から心配の電話が来たり。キャラクターの描き方がとても生々しく、6人のThoughtsの働きもあり、彼の日常の中に私たちも入り込んでいる感覚にしてくれています。そして、それは単純に黒人や、ゲイ、といった分類で説明できるものではなく、Usher自身の物語で、だからこそものすごく共感できる瞬間があったり、逆に彼の行動に疑問を持ってしまうシーンもあります。観客受けや、物語の辻褄合わせることを目的とせず、ただひたすら、Usherという0から新しいものを作ろうとしている1人の人間を正直に描いている部分が、このミュージカルを特別にしていると感じています。

脚本作詞作曲をしたMichael R. Jacksonが、インタビューで「なぜ、このStrange  Loopを作れたと思いますか?」という質問に対して、「誰も、僕が何を作るか気にしていなかったから」と答えていました。これが彼のブロードウェイデビュー作で、これまで有名でなかったからこそ、書きたいものを突き詰められた作品です。その勢いと情熱を、ぜひ生で体感してきて下さい!

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