「おいしい」との出会いが私をボーダーレスに。やりたい!と食べたい!のわくわくを翻訳して届ける食PRの新たなカタチ
キッチハイク「ふるさと食体験」メンバーインタビュー第17回目は、ファシリテーターを務める松浦裕香里さんです。
体調不良がきっかけで「食」の楽しさに気づいたという松浦さん。食を仕事にするまでのお話とキッチハイクとの不思議な出会い、都内でのお引っ越しの理由について聞きました。
食を仕事にしたときに「仕事を楽しむ」エッセンスをもらった
ーー松浦さんは食に対する愛がとても深くて、現在は食のPRとしても独立されていますが、そうなるまでのお話をお聞きしたいです。
実はもともとは新卒で法律事務所に入って、パラリーガルの仕事をしていました。3年ほど勤めたのですが、小さな事務所だったのもあって残業もあり朝も早くて、とても忙しくて体調を崩してしまったんです。仕事を休んで、一日中天井を見ているような日々が続いて。でもそのときに、体と向き合って、食事を見直したのが自分の大きな転機となりました。
パラリーガルのときは、忙しいのにかまけてインスタント食品やコンビニごはんをよく食べていて……。体調不良をきっかけに体と向き合って食を変えてみようと、グルテンフリー、オーガニック、無添加、ヴィーガン料理など、たくさんの食を試しました。実家住まいだったのもあって、母にも料理を教わっていましたね。
ーー体調不良が食を深堀りしていくきっかけだったんですね。
その後、オーガニックで無添加の食生活を突き詰めていたのですが、ココナッツオイルのプロダクトを取り扱っていたブラウンシュガーファーストという会社で友人が働いていて。まずはアルバイトでお手伝いを始めました。
しばらくして、本格的に社会復帰をするのを機に社長の計らいから、広報(PR)で採用してもらい食の世界での仕事をスタートしました。以前のガチガチな法曹界の仕事とは完全に別世界で。
パラリーガルの仕事では、依頼者のために正確にスムーズに、かつ慎重に進めるため「こうでなければ」というルールや規則を大事にしていたのですが、ブラウンシュガーファーストではモノを作る「メーカー」なので何よりも「楽しむ」という、真逆の価値観を教えてもらいました。
ーー「楽しむ」というのは単純なようでいて中々たどりつけない、奥深い素敵なエッセンスですね。ブラウンシュガーファーストではどんなふうに仕事を楽しんでいたんですか?
まだ会社も立ち上げ期で、すべてが試行錯誤だったのですが、会議などでも「ワクワクするほうがいいよね」という方針でものごとが決まることが多々あったんです。広報である私は、まずそのワクワクをメディアの方をはじめ、お取引先、ファンでもあるお客様に伝えることを何よりも大切にしていました。
当時のオーガニックフードの業界は、素朴でシンプルなパッケージが多く、キッチンに置きたくなるようなワクワクするかわいらしいパッケージの商品が少なかったんです。
そんな中で、商品はもちろん、パッケージ、ビジュアル、そしてプレスリリースなど発信の仕方ひとつひとつに作り手の想いと工夫を乗せて、1人でも多くの人に手に取ってもらえる商品作りをしていました。
製品のひとつの瓶には、生産地の人、製造加工の人、運送の人、売り場の人、メーカーの人、それぞれの想いが思いがぎっしり詰まっているんです。最終的に、それらの商品ををどうやったらおいしく食べてもらえるか、どうやったら伝わって届くのかを考えるのが私の仕事で、やりがいを感じました。当時はまだ「生産の背景」への注目度が今のように高い時代ではなかったので、時代を先回りして、いち早く「食べること」の本質を伝えることを仕事に出来たのはすごくいい経験になりました。
実は私、体調不良をきっかけにカフェインアレルギーになってしまって、デカフェしか飲めなくなってしまったんです。そこから様々な情報を集めて、おいしいデカフェコーヒー情報に関してはおそらく日本一だと自負しているのですが(笑)、自分と同じような立場の方もきっと多いはずなので、おいしいデカフェを飲んでほしいなと。そんなことから、ブラウンシュガーファースト時代には、PRなのにデカフェコーヒーのプロデュース、商品開発もさせてもらったんです。その時の実際の経験によって、商品作りの楽しさと作る人の想いの大切さは、より深く理解できたと思っています。
その頃は、記憶がないくらい(笑)、忙しかったこともあったけれど、それでも体調を崩すことなく一皮も二皮もむけたのは、やっぱり「食の楽しさを伝える喜び」という好きなことが仕事になっていたからでしょうね。
食の業界で自分という人材をシェアリングしてほしい
ーー食の楽しさを伝えることに関して話す姿がとてもイキイキとしていて、当時の楽しさが伝わってきます。そこから独立はどんな流れで進んだのですか?
4年目くらいでもっと「伝える」仕事で成長したいなという成長意欲が盛り上がり、同じ広報で転職活動をしたのですが、やっぱり違う業界ではなく、私は「食のPR」、「食」に関わっていきたいんだと改めて思ったんです。
当時から、周りに食の未来について熱く考えて、頑張っている同業他社がたくさんいたんですが、みんな「伝え方がわからない」とよく話していて。プレスリリースの書き方などを聞かれる機会がすごく多かったんですよね。
そこで、次はどこかの会社に独占的に属するというよりは、自分という人材を食の業界でシェアリングすることで、業界の底上げになるのであれば喜ばしいことだな。と思いました。自分の能力を複数の企業でシェアしてくれればいいのでは?と。
自分の企業広報の経験を複数の企業で、業務委託という形で活かすことで、自分が守っていきたい・伝えていきたい食の文化や創造の底上げになるんだったらやる価値がある。当時は体調不良だった頃の自分より、思考もポジティブに成長していたので、不安もなく「じゃあ独立しちゃおう!」という感じで、独立してしまいました。
ーー食の業界・未来、文化の底上げには確かにPRの力ってとても重要ですね。また、ここまでお話を聞いていて、PRはもちろんですが、松浦さんはそもそもの食への想いも大きいですよね。
もともと食べることへの執着心が幼い頃から異常にあって、母の視界から消えたと思うと、台所でねぎ一本をかじっているような子どもだったそうです。
ただ、どちらかというと病気を経験する20代前半くらいまでは食べるものの質というよりは、食べることで気持ちが満たされて幸せになれることや、周りの人たちと食事を囲む雰囲気が大好きだったんですよね。もちろんそれも今でも大切なんですが、色々経験した20代後半からは解像度があがって、どんなものを選ぶかも大事なんだなと。段々と、食材の背景やストーリー、誰が作っていてどう調理したら美味しく食べられるか、なども考えるようになりましたね。
「おいしい」はボーダレス。地域も言語も超える
ーー松浦さんにとって食ってどんな存在ですか?一番自分をひきつけるところがあったら教えて下さい。
私が、食に関することを人に話す時って、すごく熱くなるんです。もしかしたら、うっとうしいとか、ちょっと面倒臭い人だと思われることもあるのかもしれない。でも、「食べ物」って自分の口に入れて、体の一部になっていくものだから私は何よりも大事にしたいと思っているんです。衣食住の住むところも着る物も大事だけれど、食べるものって、すごく繊細だと思うんです。
だからこそ、自分が日ごろ食べるものの「解像度」はあげておきたいし、美味しいことはもちろん、どんな雰囲気の中で、誰と何を食べるかの一食ずつをもっと大切にしたいです。この人がやっているお店は、雰囲気も食材が良いから、あなたと行きたいんだよね。みたいなそういう価値観を食を通して見つけられるところが、食は楽しいです。
「おいしい」ときの顔って、すごく幸せで、言葉が通じなくても一発でわかりますよね。おいしい時の幸せな気持ちって拡がっていくし、温かい気持ちにしてくれる。
「おいしい」はそういった意味でボーダレスですよね。年代も性別も国籍も価値観も超えて、万人シェアできる幸せな感覚なんです。だからこそ、食の文化を守っていきたいです。
作っている人の想いやストーリーも本当にさまざまなので、解像度をあげるともっと楽しく見えてくると思います。
生産者の思いを翻訳しユーザーに届ける
ーー現在、キッチハイクでは「ふるさと食体験」でファシリテーターを担当されていますが、松浦さんはどんなことを意識して運営されていますか?
これまでやってきたPRで大事なことは、生産者や製品を作られた方の思いを翻訳して、ユーザーに届けるということなんです。キッチハイクでも、私が翻訳としてファシリテーターをすることで、生産者さんとユーザーさんたちがつながっていく、ということを意識しています。
食には生産者、販売者、購入者、メディアなど4〜5つの立場があって、それぞれが考えていること、使っている言葉を適宜翻訳できる、すごくおもしろい役割がキッチハイクの仕事なんです。
あとは、PRだから、ファシリーテーターだから「こうでなければならない」という考えをはずすとやっぱり見えてくるものもありますね。企業の商品を紹介するだけがPRの仕事ではないので、自分しかできないことで、広い意味でつないでいきたいです。
ーー「こうでなければならない」をはずす、というのは松浦さんにとってとても大事なテーマなんですね。食に関してはずしていきたい、と他にも考えることはありますか?
そうですね、身近なことなんですが、食器はセットや合わせたものを使わなければならない、野菜は多く食べなければいけない、などの固定観念はどんどんはずしたいです。
究極を言えば、食事は楽しければいいんです。人や食事に合わせて、食器も選ぶし、野菜の量も決めていい。
どんな人にも「たのしい」「よかった」が残る食事が私の目指す食事ですね。
普段の買い物の先にいる人たちと一緒に、食卓を囲むことができる
ーー松浦さんが携わる中で感じる、ふるさと食体験の良さはどんなものですか?
自分にとっては、ふるさと食体験のイベントが週末に入るのがすごく嬉しいです。キッチハイクのみなさんは、週末だし忙しくなっちゃいませんか?ってすごく心配して下さるのですが、新しい出会いがたくさんあるんです。生産者さんだけではなくて、画面越しで毎回参加してくれる方や初めてお会いする方まで、出会いが多くて、本当に楽しんでやっています。イベントが月に2回入ると、今月は2回もある、嬉しい!って思っています。
もちろん、食材が届く楽しみもあるし、打ち合わせのたびに生産者さんの普段聞けない話を聞けることも楽しみのひとつです。スーパーで普段買い物をしているだけでは出会えない、生産者の方、そして食に興味関心の高い参加者の皆さん、みんなと一緒に画面越しで「これ美味しいですよね」ってシェアできる喜びってなかなかないと思います。ファシリテーターをしている自分がもしかしたら1番楽しんでいるかもしれないです。
ーー生産者の方と食卓を囲う機会はなかなかないですね。そんなふるさと食体験を一緒に運営していく中で、メンバーに共通する特徴はありますか?
食に対して異常なこだわりと熱い気持ちのある人の集まりですね。
食への貪欲さ、執着さというか。私の周りにもグルメな人はたくさんいるのですが、徹底的に「食の好きの因数分解」が完了している人は、意外と周りにいませんでした。多分単純に「おいしい」だけを知って満足な人が多いから。「おいしい」のその先の因数分解している部分まで深く話せる人って実はいなかったんです。
キッチハイクメンバーって食べることの「食の好きの因数分解」がみんなできているので、それを細かく話すとどれも共鳴する部分が多くて、いつも話していて楽しいなって思います。食に対するこだわりや好きのベクトル、深さを同じレベル感で話せる人が多くてすごく嬉しいし、人生30年以上やってきてやっと、こんな人たちに出会えたと思ったので、嬉しいです。
気軽に家に人を呼んで食事をシェアする暮らしがしたい
ーー松浦さんの食へのこだわりがやっぱり素敵です(笑)。最後に、今後の展望を教えてください。
まず個人では、自分が作ったごはんを人に食べてもらう機会を作りたいです。
最近引っ越しをしたのですが、人を呼んでみんなでわいわいご飯を食べられる家にしたかったからなんですよね。Instagramでご飯をあげているんですが、それを見た友人や仕事関係の人、いろんな方が「ゆかりちゃんのご飯を食べてみたい」と言ってくれて。とても嬉しい言葉なのだけど、前の家は人を呼べるほど広くなかったので(苦笑)。せっかく人を呼ぶのだったら、我が家に呼ばれた人同士が、我が家の食卓を通してつながるのが面白いかな?と思ったので、そういう空間にしたいなと考えています。気軽に、「面白い人が集まるからみんなでご飯食べようよ」「我が家でご飯食べていく?」とか言える空間があるのって、本当に贅沢で豊かだな、と思っています。
私、普段から自転車に乗るのが大好きでサイクリングしているんですけど、新しい街は雰囲気もすごくよかったし、農家さんから直接野菜を購入することができるお店や発酵専門のお店があるんです。食が好きな自分にぴったりの街だな〜、って自転車でぐるぐる回って今の家にきめました。
あとは店を週末だけ間借りして、セレクトした野菜やお肉や調味料を使ってワンプレートを出すお店をやりたいですね。
食に携わってきた中で、自分がいいと思うものに出会えた瞬間がたくさんあります。その出会いをそのままにせず、自分が料理をすることでひとつの食事として味わってもらえたら、食の良さがもっとダイレクトに伝わると思うんですよね。
ーーぜひ食べたいです…!どんなお料理になりそうですか?
無国籍であり、多国籍な「わたしのプレート」が作りたいです。フレンチでもイタリアンでもなく、ヴィーガンの日もあれば、豪快な肉料理の日もある。そんな、私が体験した食の中で厳選したものを毎回作ってみたいですね。作っている人たちの顔も見えるものにしたいです。
ふるさと食体験もそうですが、自分が経験してきた、食を通して今まで知らなかった世界が見えた時の発見する喜びや、おいしかった時の感動、分かち合える楽しさをもっともっと形や概念に囚われずに広げて伝えていけることができればいいなと思っています。
キッチハイク「ふるさと食体験」を一緒に作りませんか?
キッチハイクは、全国各地から食と文化と交流に興味がある仲間を探すべく、「ふるさと食体験ができるまで」をコンセプトに、ふるさと食体験を一緒につくっていく準備室メンバーを募集します。
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