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武田塾讃歌/惨禍 ①前書き

 武田塾との出会いは、いや、私は武田塾に通ってもいなければ子どもを通わせたわけでもなく、武田塾と双方向的なやりとりなどしたこともないわけで、もう少し正確に言えば武田塾を「知ったのは」、何がきっかけだったのか今となってははっきりしない。時期は今からもう7年ほど前にも遡るのだろうと思う。家の近所にある校舎の「授業をしない塾」の看板が目にとまったのかもしれない。爾来、私は時に武田塾のYouTubeチャンネルの動画をとりつかれたように繰り返し再生したり、時にはまるでそれがなかったものであったかのように動画を無視したりした

 私は自分自身がほとんど塾・予備校を利用しないまま受験を乗り切ったためこの業界が抱える闇のようなものをほとんど体感したことがないが、ある程度の推測くらいは行うことが可能だ。昔から問題となっていたのは、例えば、

・塾生が夏季講習や映像授業をとればとるほど塾に金が入る仕組みで、それゆえに本人の成績や意向に関係なく次々と講習・講座がチューターなどから勧められる。
・講習にほんの少し参加しただけの生徒の合格までが塾・予備校の合格実績にカウントされ宣伝されている。
・そもそも授業で話を聞いているだけでは成績はほとんど上がらないが、自習や復習は「家で自分でやってね」というスタイルの予備校が昔はほとんどだった。
・受講者の成績が上がらないからといって塾や予備校は責任をとってくれたりお金を払い戻してくれたりはしない。
・塾や予備校の講師は話を聞かせる言わば「授業のプロ」、面白い・興味深い話によって「わかった気」にはさせてくれるかもしれないが、それは「できるようになる」こととは違う。

 武田塾は「授業をしない塾」をキャッチフレーズに、完璧に内容が身につくまでの参考書学習の強みを全面に押し出し、そこに独自の自学自習のノウハウや徹底的なコーチング(自習管理)を加えたものを商品として現在400を超える校舎を展開しているコーチング型塾の大手である。参考書のいわゆる「ルート」なるものを手がけた先駆け的な存在でもあり、Aの基礎の参考書が終われば標準のB、Bが終われば次は応用のC、…というように、目標とする大学に合格するまでに身につけるべき力の目安を、参考書を(大まかな)難易度順・目的別に並べることによって示したことは特筆すべきである。SNSを有効活用していることにおいても現代的であり、YouTubeの「武田塾チャンネル」ではインフルエンサーでもある(と言っていいと思われる)人気講師陣が、受験生への学習上の注意点、計画の立て方、参考書の進め方等を時には真面目に、時には冗談も交えて伝えるための動画が毎日のようにアップされている。

 私は恐らく約7年前くらいからこの武田塾のYouTube動画をかなりの数見てきて、自分自身がその参考書・自習重視の考え方に痛快な思いを抱き軽い信者となる反面、ますます苛烈になる彼らの授業批判・学校批判・「自称進学校」批判に対して、学校関係者としてのアイデンティティ崩壊を食い止めるべく必死に自己の内面の調整を図ってきた。

 このマガジンは、今述べたような学校教員としての私の葛藤を、文字に起こして記録していくことを目標としている。また、これは武田塾だけではなく、それと類似した主義・主張を持った他の(受験)教育団体との向き合い方そのものだとも言えるだろう。

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