昼前、被害者、会社社長という事もあり、交友関係も広く、人手が必要という事で、我々所轄署の刑事課も、現場周辺の聞き込みに加え、関係者への事情聴取に当たる事になった。 自分は、臨場した時と同じく、係長について、被害者の弟の竹井幸司さんと、被害者と不倫関係にあった須藤奈緒美さんの聞き込みを手伝うよう下命を受けたのだが。 被害者の奥さんから聞いた番号に電話すると、被害者の弟さん、大阪といえばここという看板がある繁華街からやや南西にさがった辺りにある、マンションの一室に住んでいる
とあるマンションの一室——、その薄暗い一隅にて、その人物は、額に汗を滲ませ、込み上げてくる衝動を抑えるのに全力を尽くしていたが、それはもはや限界に達していた。 だめだ。もうこれ以上は我慢出来ない。こうなったらやるしかない——。とかか。 そう心に決めると、その人物は、すっと左手を伸ばし、金属製のそれをぐっと握りしめた。 ピーポーピーポーピーポー ポーピーポーピーポーピーポーピー * 深夜一時過ぎ、自分が運転する覆面パトカーは、通報のあった大阪市某区の事件
今夜は、高校時代の旧友が集まっての女子会。 久しぶりに会うメンバーばっかりだったんで、ちょっと不安だったんだけど、みんな若くて昔と変わらない。お肌ぴちぴちでお人形さんみたい。とても20代後半、30手前とは思えない。 結婚して子供を産んでいたのは私だけで、正直、肌のはりの差に少し唖然としてしまった。 とはいえ、みんな、相変わらず陽気で明るく、居酒屋のスタッフが厨房からの指示を受けるために耳につけているイヤフォンをみつけて、「見て見て、あの人イヤフォンつけてる」「あ
女の子というのは、男の子に比べて大人っぽいというが、本当だ。 六才となり、小学校に通いはじめた上の娘など、なにかっていうと、はあ、疲れたと言って溜め息をつく。たかが小学校に行くだけで、何をそんなにも疲れる事がある、と思うのだが。 とはいえ、最近、あまりに大人っぽ過ぎるので、少し心配になってきた。 というのも、なにやら言う事が変に理屈っぽく、母親に似てきた気がするのだ。 この間も、「パンはパンでも食べられないパンはな~んだ?」ていう誰にでもわかるなぞなぞを出してあげる
主人の転勤により、大阪に越してきて早三ヶ月――、 こちらで知り合った同僚の方を招いて、御馳走しようという事になったんですが、ついうっかり、お肉を買っておくのを忘れてしまったため、いつもは高級百貨店のデパ地下まで買いに行くんですけど、生憎、時間がなくて、近所の、激安スーパーていうんですか、そういう所に買いに行ったんです。 御会計を済ませて、エルメスのロゴが入った高級財布にお釣りをしまおうとしますと、床からちゃりんという、お金といっていいのか、一円玉が一枚落ちるような音
これは、ある男性が、畿内の某県にある山村に、伝統舞踊の取材に出掛けた帰り道での話――、初秋の午後の事なんですけどね。 山道を予定より少し遅れて歩いている途中、突然の夕立に晒された男性は、慌ててしまったのか、誤って本来のルートとは別の道に入り込んでしまったらしいんです。 それが運の尽きだったのかな。山では時に些細な天候の崩れが、人を怪異の世界に誘うというのはよくある事でね。 どうやら道を間違えた事にはすぐに気づいたらしいんですが、その道を少し入った所に黒い屋根をも