NO.16『大切なバック』
へっぽこ娘
今母が一番こだわっているのはバッグ。寝ても覚めても自分のバッグを肌身離さず持っている。家でもトイレには必ず持って入るし、夜は自分の枕の下に敷いて寝たり、足の間に挟んで寝ていることもあるくらいだ。
以前は若い女性が通勤に持ち歩くような大きなバッグにパンパンになるほど物を入れてデイサービスに持って行っていた。どう見ても90歳になろうとしているおばあさんが持つような形状のバッグではないし、歩くのもおぼつかないのにどうしてそんなに重たいものを持つのか、いつも呆れて見ていたが言っても聞かないので好きにさせていた。
そのバッグが壊れてからは、ようやく小さめのものを使うようになったが、相変わらずパンパンに物を入れていた。中からは何でこんなものを入れているの?というものばかりが出てくる。例えばハンカチやタオルなどが最低でも5~6枚は入っているし、髪をとかすブラシが2つとか、若い頃の写真十数枚、辞書、マスクが20枚くらい、何年も前の複数の年賀状、デイサービスでやったぬり絵などのプリントなどがたくさん入っていたりする。ぐちゃぐちゃに絡み合ってしまったアクセサリーがビニール袋に入れてあったり、時にはリハビリパンツや下着が数枚入っていたり、よくわからない巾着袋のようなものに眼鏡やハサミやメモ帳数冊、ある時には果物ナイフが入っていてビックリして取り上げたこともあった。その時々で中身が変化するのだが、テレビのリモコンが見当たらなくて探すと必ずと言っていいくらい母のバッグの中から出てきた。
本人のためになるべく持ち物を少なくしたい私は「これは使わないから持って行くのはやめようね」と言うのだが、「そうだね」と素直に聞くときもあれば「なんでよ~!これは持って行くんだから!」と強く拒否することもあった。きっと母なりの理由があるのだろうと思って聞いても説明できないので、こちらにはまったく伝わらない。理由がどうでも本人が持って行きたいと言っているのだから仕方なく毎日そのまま持たせている。
自宅と同様にデイサービスの施設内でもバッグに対するこだわりがあることはスタッフから聞かされていた。入浴サービスをお願いしたときには、バッグに対する強いこだわりがあるので、本人がそれを手放して入浴できるかどうか心配とまで言われたくらいだった。実際にはその様子もなく、すんなり脱衣場に置いて入浴していると聞いてホッとしている。
母は家で何もすることがないときは、一人でバッグの中身を出したり入れたりしていることが多い。そのことは別にいいのだが、あれがない、これがないと探し物をしているので、「それはお母さんのバッグの中にあったでしょう?」と言って見てみると昨日と全然違う物がバッグに入っているということがしばしばある。母の物をちゃんと管理してあげたいけれど、四六時中見張っているわけにもいかない。自分で別のところに片付けておいて、置いた場所や置いたことすら覚えていないのだから、結局いつものように私が時間をかけて探すことになるのだ。
「もう!頼むから私の時間を返して!」こんな気持ちが湧いてくるのを抑えきれないまま探し物をしている私がいる。